部屋から出ると、今一番会いたくない彼が立っていた。

私は、ジェヒョンの目を逸らし、逃げるようにしてこの場を去ろうとした。

「へヨン様、お待ちください。」

「あなたなんて知らないわ。」

そんな私の様子を見て、彼は、尋ねて来た。

「ご結婚のこと、殿下からお聞きになったのですか?」

「そうよ。私が結婚を嫌がっていたこと、知ってるじゃない?なのになんで賛成したの?」

私は、彼への怒りから問いただすように尋ねた。

「トリカブト王国の侵略を止めるには、そうするしかなかったんです。」

「そんなことわかっているわ。」

「それにへヨン様は、このカルミヤで苦労されて来たのを僕は、知っています。トリカブト王国の皇太子であるトア様は、お優しい方だと聞きます。へヨン様も今よりも幸せに暮らすことができると思います。」

ジェヒョンは、私がこの地で苦労したことを知っている。

でもね、ジェヒョン。

私もうこの地は、そんなに嫌いではないの。

あなたと出会った頃、私は、この地が大嫌いだった。

父上も母上も弟も皆大嫌いだった。

でもあなたと出会ってからこの地が大好きになったの。

あなたが存在するこの地が。

そんなことを思い出した私は、彼にこう言っていた。

「そうね。私も幸せになりたいからトリカブトに行くことにするよ。」

私がそう言うと、ジェヒョンは、ホッとしたような表情をしていた。

「僕もヘヨン様と一緒にトリカブト王国に着いていきます。僕は、いつでもヘヨン様の側であなたの命をお守りします。」

彼は、いつもこの言葉を私に言ってくる。

そう。

ジェヒョンは、父上と約束したから私の側にいてくれているだけなのに錯覚してしまうの。

でもそれでもいいの。

彼が側にいるだけでそれだけで幸せ。

だから私は、彼以外の人と結婚することになってもいいの。

彼が側にいてくれるなら。