俺の告白に驚く様子などは無く、義嵐は変わらず酒を煽り続ける。

「お前はその歳で初恋だもんな。動揺もするってもんだ。分かるなぁ…早苗さんは美人だし、良い子だからな。」

願わくば、早苗さんには歳のことは伝えてくれるな。
動揺の波を乗り越え、俺は再び人の姿へ変化する。自覚はしていたがいざ口に出すと、大きな後悔が襲い来る。
まだまだ巡礼は続くのだ。明日から彼女をどんな目で見ればいいのだろう…。

しかし、義嵐の危惧は別にあった。

「…でもな、仁雷。あの子は最後には、狗神様の元へ行くんだ。あんまり肩入れすると、別れの時が辛くなるぞ。」

「……………。」

俺は自身の首に施された、未だ消えない呪いの紋様に触れる。

「…この巡礼中、俺が彼女に想いを伝えることはない。今はただ、彼女の身の安全を第一に考えるだけだ…。
ーーーそれよりも、義嵐。俺もお前に確認したい。」

それは、俺が幾度となく感じた不安だった。
義嵐が早苗さんに向ける眼差し。それは、これまでの巡礼では見られなかった、初めてのもの。恐らく、義嵐は…、

「お前…早苗さんに、“秋穂(あきほ)さん”を重ねているんじゃないか?」

義嵐の盃の手が止まった。

無表情な横顔から、意思は読み取れない。
しかし、その後発せられた声は、いつもの穏やかな調子だった。

「馬鹿だなぁ。早苗さんは早苗さんじゃないか。」

一気に酒を喉に流し込む。
それ以上の言及を拒絶するかのように、義嵐は立ち上がり、用意された寝床の方へと歩き去ってしまう。

後ろ姿を追いかけることが出来ない。
代わりに、俺はこれだけは伝えておきたかった。

「……俺だって、お前に後悔してほしくはない。だから…早苗さんを護るぞ、必ず。」

「…………。」

寝床の襖を開き、後ろ手に閉めるまで、義嵐がこちらを振り返ることはなかった。