「次のシーンはじめます。よーいアクション。」
『アキラどうしたの?浮かない顔して?このパーティー楽しくない?』
〈僕は、彼女との約束を断ったクリスマスに当時主演を務めていたドラマの打ち上げに来ていた。〉
『みなみさん。いいえ、そんなことないです。ドラマの打ち上げに参加したのは初めてなので少し緊張していて…』
〈彼女は、ドラマで共演中の一ノ瀬みなみさん。現在活躍中の女優の1人だ。〉
『ははは。俳優なのに嘘が下手くそだね。さっきから携帯ばかり見てるの気づいてる?…もしかして彼女?』
『はい…毎年クリスマスは、一緒に過ごす約束をしていたんです。でも僕が破ってしまったので…』
〈僕がそう言うと、みなみさんの顔が少し曇ったのを感じた。〉
『彼女と上手くいってないの?』
『そうですね。
最近忙しくてなかなか会えていなくて。』
『そうなんだ。忙しいんだったら仕方ないわね。』
『はい。
でも仕事終わりに彼女のマンションまで行ったりもするんですけど、彼女は、あまり嬉しそうではないんです。
だから僕のことを本当に愛しているのか不安になる時があるんです。』
『そうなんだ…
彼女は、るいを愛していないんだと思うわ。
私が彼女だったら常にアキラの側にいたいと思う。
…ねぇアキラ私じゃ駄目かな?
私があなたに向けている好意に気づいていないの?
それとも気づかないフリをしているの?』
〈僕が返答に困っていると、スタッフの声が聞こえてきた。〉
『みんな〜打ち上げは、お開きだ。みんな退散するように。』
〈スタッフさんの声がけと共に俺たちは、会場をあとにした。〉
「はい。カット。るいくん、さくらちゃんすごい良かったよ。」
私は、るいとさくらさんの2人の演技を見つめていた。
今でもこの2人の並んでいる姿を見るのは、辛い。
正直当時もさくらさんがるいに好意を抱いているのは、知っていた。
私だけではなくて、全国民が知っていたと思う。
3年前、るいと付き合っていた頃、私が美容室に行ったときのことである。
「最近、るい人気ですね。」
美容師の人が私が読んでいた雑誌を見て、こう話しかけてきた。
私が返事をすると、
「付き合ってる人とかいるんですかね?」
と私に問いかけてきた。
内心ドキッとしたがバレないために咄嗟にこう言い返した。
「…アイドルだからいないんじゃないですか?」
そう言うと、私が1番聞きたくない情報を教えてくれたのだ。
「あっ!でも今共演中の東堂さくらと噂出てますよね?噂ですけど。」
「え?そうなんですか?」
るいは、私だけを愛してくれていると思っていた当時の私は、あまりの衝撃に大きな声を出してしまった。
美容師の人は、そんな私の様子に驚いていた。
「お客さん!そんなに興味あるんですか?」
私がコクンと頷くと、彼は話し続けてくれた。
「東堂さくらのSNS見たことあります?彼女のSNS、洋服もアクセサリーも全て彼と同じなんですよね。さすがに付き合ってますよね?」
あまりの衝撃に声も出なかったのを今でも覚えている。
この頃の私は、彼と1ヶ月以上会えていないだけでなく、電話もできておらず、彼のためと思いつつも、彼に浮気されたらどうしようと内心怯えていた。
その不安が現実になってしまったのだ。
この直後のことだった。
彼とさくらさんが週刊誌に撮られたのは。
しかも私と約束していた3年前のクリスマスの日。
ルイは、私との約束を破り、さくらさんと過ごしていた。
その記事が週刊誌に掲載されたのだ。
その記事を見た私は、今まで不安に思っていたことのピースが揃った気がした。
彼に本当のことを問い詰める精神力を持ち合わせていなかった私は、電話で一方的に別れを告げた。
そして電話番号も変更し、住んでいた家も引っ越し、完全に彼との連絡を断ち切った。
だから今でも真実がどうだったかは、分からない。
でも本当にるいが私を裏切ってさくらさんと浮気をしていたのだとすると、
今でも2人は、付き合っているのかもしれない。
「るいくん。あの時のことを思い出すね。」
「そうですね。」
「私るいくんとまた共演できて嬉しいわ。夢のよう。」
彼女の彼に対する態度を見ていると、今でも彼女が彼のことを愛していることが伝わってきた。
このドラマは私に何を伝えようとしているの?
結末はどこに向かうの?
このドラマは、誰が制作したの?
そんなことを脳内で考えながら、遠くから2人が話しているのをじっと見つめていた。