「なら、ランチという普段着のご馳走を前にしたショットで行きましょう。小島さんからどうぞ」

「いいんですか?」

「ぜひ…、です」

二人はノーポーズで互いの素顔獲りでスマホに収めた。

「さあ、熱いうちにいただきましょう。で、どうします?会話は…」

「あのう…、できれば会話抜きで食事した後に、ドリンクを飲みながらマスク会話したいかな…」

この時の彼女はちょっと遠慮がちだったが、自分的にもそのスタイルを望んでいたので、ぶっちゃけ内心ホッとした(苦笑)。
そこで、S美の提案へはそっくり胸の内そのままでお答えしたよ。

「自分的にもそのスタイルを望んでいたので、ぶっちゃけ、内心ホッとしました。はは…」

そしたら彼女、目をまん丸にして、「まあ…!」だってさ(内心爆笑)。

***

ここで食事が始まったが、とオレは正面のS美をさり気にチェックして食ベ終わるタイミングというかペースを合わせてね。
もっとも、S美の方もこっちをチラ見してて、オレの食べるスピードを意識してるようだった。
そのやや端折ってる感がちょっといじらしかったかな。

結局二人はほぼ同時にランチを腹に収めた。
ちなみにひと運動後の二人は、共にきれいに残さずだったよ(笑)。

食後ほどなくしてウエイトレスさんがオレらのテーブルにやってきてさ。

「おお、もう下げに来ましたよ」

「今日はすべて早いですね」

オレとS美は意味ありげに口元をほころばせていた。
そう…、この日のランチは一種、主客転倒の側面が浮上していたと思うんだ。

***

食事しながらたのしく談笑…。
これが従来の会食…、とりわけ異性との”デート”に準じたひと時のトータルスタイルだったんだろうよ。
だがしかし、今は1年以上続く奇妙な”非平時”だ。

食べながら会話を弾ませれば飛沫が飛び、ウィルスの感染リスクを抱えながらってことになる。
しかし、この店でもそうだが、会食相手との間にはアクリル板が設置されてるから、一応の感染防止ってことになってるんだよな。
それでも世の中のモードは、マスク会食のルールに従って、食べる⇒マスクなし、会話⇒マスク着用ってのがコロナ禍の会食ルールという空気ができちゃってるんだもん。

やっぱ、すっきりした気分で会話ってんなら、食事は粛々(?)と済ませ、その後に飲み物を口にするとき以外はマスクして、ゆっくり会話を楽しみたい…。
所詮、個人の考え方だが、たまたまS美とオレは後者派だったってことになる。

つまり、食とリアルな会食の席での会話を量りにかけた時、会話を”食べる”の上位に置いていたという訳だ。

蛇足ながら、食後の食器をテーブルから下げたウエイトレスさんが笑顔で、「ごゆっくりどうぞ❣」という聞き慣れた言葉も、どこかいつもより深いとこにまで響いてきた感じがしてね。

ということで、奇妙な捉え方になるが、本ランチのメインディッシュである異性との会話を迎えたよ。
そのお楽しみのお相手はいわゆる地味目な体育会系女子で、決してナンパまでしてお近づきをってタイプではないのだが…。
だが、しかしだったんだわ。

ハハハ…、このワクワク感っていったいなんだよってくらい、ウキウキしてんじゃん、オレ…。
コロナ禍で変わっちまったのか、オレ…。

S美とのこれよりの会話では、ここんところが隠れテーマになっていくことになる…。