Side禅

僕が勧めたポートワインを「頂きます」と言って口に含む桜良ちゃんを見て、僕の心臓がトクっと音を立てた。

花には花言葉があるようにお酒にも酒言葉というものがある。
ポートワインは男性から女性に送ると愛の告白の意味がある。
そして、それを女性が飲んだらOKのサインになるのだけど、そんなことは桜良ちゃんが知る由もないだろう。


僕は別の人を思って胸を痛めている彼女を
遠くから傍観することしかできないでいた。


僕は小さい頃から女の子に好かれることが
多かった。
中学生になる頃にはいつも女の子に囲まれていたほどだ。
推しに弱い僕は告白される度に付き合い、気がつけば彼女が10人ほどになってたこともあった。最初は他に彼女がいてもいいからと半ば強引に付き合った女の子達も、最終的には争いになって修羅場になるのだ。
そして、男の子達からはタラシだのやっかみもあってそれをサラリとかわしていたものの、人間関係に疲れた僕は通信制高校を選択したのだ。

それでも、女の子達からは入学式の時から言い寄られて中学生の時よりは減ったものの、修羅場になることは多々あった。

そして、修学旅行で誰と周るかで女の子同士で修羅場が勃発したのだ。
結局、決められない僕は“皆で周ろう”と提案したところ、思い切りビンタされ一人で周ることになったのだ。

すると、僕と同様、ポツンと一人で観光地を周る桜良ちゃんを発見したのだ。

当時の桜良ちゃんは今より少しぽっちゃりしてて、昔小学生の頃に飼ってた犬にそっくりだった。

名前も同じサクラで、僕はその犬が
大好きで餌を上げると喜ぶから沢山与えてまん丸になっていた。
そのせいで長生きはできなかったのだけど。

真っ白なお餅のような桜良ちゃん。

僕はそんな桜良ちゃんに思わず“お手”って
言いそうになりながらも“一緒に周ろう”と誘ったのだ。

出会ったときの桜良ちゃんは今よりももっと口下手で、あまり会話という会話はないものの、なんだか桜良ちゃんの
隣は他のどの女の子よりも居心地が良かったんだ。