「あれ?翠ちゃんは?」

そこへ、禅ちゃんが私の隣の開いた席に目を落としながら
お酒の入ったグラスを私の前に差し出した。

「あッ、なんか化粧直してくるってお手洗いに」

私はいきなり話しかけられて、思わず少し声が上ずってしまった。

「そっか...」

「うん...」

最初、店に入った時、禅ちゃんとは翠を交えて少し会話はしたけど
やはり翠がいないとなんて話してよいか分からなくなる。
だけど、折角勇気を出してここにきたというのにこのままでは
再開を無駄にすることになる。


私は気まずい沈黙が流れる中
必死に頭の中で言葉を探した。

しかし禅ちゃんはそんな私のぎこちない雰囲気を察したのだろう。


「ハハッ。なんか気まずいよね♪」

笑いながら能天気な態度で会話の先陣を切った。

私は「う、うん」と禅ちゃんの笑顔に思わずおかしな賛同してしまう。


「桜良ちゃん、もうここには来てくれないかと思ったから、
来てくれて嬉しかった」

禅ちゃんは自信なさげに笑いながら言った。


私はその言葉にハッと顔を上げると
「何言ってるの!私たち友達でしょッ」
咄嗟に声を張り上げた。

すると禅ちゃんは「ありがとう...」と
複雑な表情を浮べながら言った。


私はその表情を見て振った分際で
友達だなんて自分は何を言ってるのだと
慌てて「ごめん」と謝った。


しかし、禅ちゃんはそんな私の表情を見て
「でも、やっぱり友達より彼氏の方がいいな♪」
おどけたような口ぶりで言った。


「えっ?!それは無理だよっ」

私は思い切り胸の前で両手を振った。

「ハハッ。だよね。残念。
だけど、もし皆藤さんに飽きたらいつでも言ってね」

「もう..そんなことにはならないよっ」

私が口を尖らせながら呟くと、禅ちゃんと目が合ってお互いブハッと吹き出してしまった。

きっと禅ちゃんは私に気を遣わせまいとわざと言ってくれているのだと
悟って私は頬を膨らませながらも、胸の内は嬉しかった。