「あっ、竜海さん、そういえば、今日の商談大丈夫でしたか?」

桜良はハッと思い出したように問い掛けてきた。

「商談?」

商談とは何の話だろう...?

「あの、実は今日、仕事が終わってから、
竜海さんの会社まで行ったんですが、たまたま松谷さんと会って.....。
その時にお昼に竜海さんが大事な昼食会を私の為に抜け出してしまったことを聞いたんです。もし私のせいで商談の話がなくなってしまったら、ごめんなさい...」

「商談?松谷が商談と言ったのか?」

昼食会を抜け出したことは確かだが、ただ今回の昼食会は親睦を深めるための情報交換の場に設けただけで、そもそも商談の話などしていない。

「はい。すみません。取引先の方がとても怒ってらっしゃったみたいで、もしかしたら大事な商談がなくなるかもって...」

松谷はそんな大嘘を桜良についていたのか。

俺は苛立つ気持ちを抑えて
桜良に安心させるように微笑んだ。

「大丈夫だよ。昼食会の相手は仲の良い相手だったから。多分、松谷の勘違いだろう。」

「そうですか。良かったぁ...」

桜良はホッとしたように頬を緩めた。

桜良は松谷が桜良のことを落とし入れようとしたなんて知らなくていい。
きっと知れば、松谷がそれほどまでに自分に敵意を持っていたのかと傷つくに違いない。

松谷か...

今回の桜良のストーカーの件といい、
何か引っかかる...

一応、松谷も調べてみる必要があるかもしれない。

桜良を悩ます相手は誰であろうと許さない。

俺はグッとハンドルを握りしめると
顔も名前も分からない犯人相手に
戦うことを改めて決意した。