七兎side




ひどいことをした。

たぶん俺は、ひどいことをしてしまったんだ。



「ゆら、もういいの?まだオレンジが残ってるじゃない」


「ごめんお母さん。今日も早く行って図書室で勉強したいから、帰ったら食べるよ」


「そう?気をつけてね」


「うん。行ってきます」



顔を合わせた朝は、必ず向こうから「おはよう」と言ってくれて。

ぶつかりそうになったときは率先して「ごめんね」と、言ってきて。


俺より早く帰宅していたときは「おかえり」「冷凍パスタあるよ」って。


寝る前にふたりで終わらせていた課題という日課は、「いつも迷惑かけちゃっててごめんね」と、それぞれに戻したのはそいつだった。


一見すると変わらないというより、前よりも穏やかに見えるかもしれないけど。



「七兎くん」



もう俺のことを“ナナちゃん”とは呼ばなくなって、ただ同じ屋根の下に住んでいるだけの“他人”になってしまったみたいに。


もちろんそうさせてしまったのは俺で。

だけどあれは、俺にだって言い分がある。