もうごめん、なんて言わないで



「うわ、鬼電きてるし」

 突然携帯を手にした彼が顔を引きつらせ、画面を見つめた。

「ああ、もしもし。今? お前んち。……分かったって、開けるから待ってろよ」

 西條さんは立ち上がり、ふらふらとインターホンに向かって歩いていく。

 どうやら電話の相手は俊介のようだ。


「ごめん。ちょっと言いたいこと言い過ぎたわ」


 戻ってきた西條さんの声はどこか落ち着いていた。

 真横に気配を感じ、気まずさから顔をあげる気にはならなかった。


「香織にうっかり色々話しちゃって、ややこしくさせた責任は俺にあるから。そのせいでふたりの関係が壊れんのは不本意っていうかさ」

「それは西條さんのせいでは」

「あのさ、自分がどれだけ大事に思われてるか知らないでしょ」


 思わず顔をあげたら、柔らかく微笑まれた。

「もうすぐ帰ってくるから、聞いてみな」


 西條さんはそのまま部屋を出ていった。

 これみよがしにテーブルのど真ん中に置かれた鍵は、自分の痕跡を残していくようだった。