もうごめん、なんて言わないで


 一瞬なにか言いたそうな表情をしたが言葉を飲み込んだのが分かった。

 楽しそうな真空の声だけが部屋の中に響き、なんとも言い難い重い空気が充満していた。


「あのさ、もしかして俺」


 インターホンが鳴った。

 びくりとして、危うく麦茶をこぼしそうになった。


「誰だろう」


 動じていないフリをして立ち上がる。

 彼は今、一体なにを言おうとしたんだろう。
 真空が二歳になると知ってどう思ったのだろう。

 勘ぐったような表情に胸がざわつく。

 本当は心臓が飛び出しそうなくらい速く鼓動している。

 宅急便から荷物を受け取ったあと、リビングに繋がる扉の前でゆっくり深呼吸をした。

 恐る恐る扉を開けたら、きゃっきゃと声が聞こえてきた。リビングを覗きこむと、俊介が真空を持ち上げて高い高いしていた。

 どうしようもなく目頭が熱くなる。


「え、なんで泣いて」


 真空に向けた笑顔のままこちらを向いた俊介が、一瞬にして表情を消した。

 彼の言葉で気づく。

 無意識に頬を伝っていた涙にハッとして顔を背けた。


「目がしょぼしょぼしちゃって」


 自分でも呆れるくらい下手な嘘。

 でも咄嗟の言い訳はこんなものしか浮かばないくらい動揺していた。

 鼻をすすり精一杯の笑顔を作って近づいたら、俊介は真空をじっと見つめたまま愛おしそうな顔をした。