もうごめん、なんて言わないで



「多分そのまま実家に泊まってくると思う。今日は真空のこと見てる約束だったのに、ほんと申し訳ない」
「いいってそんなの。こっちのことは気にしないでいいから、早く行ってあげて」


 車のキーを手に杏奈がバタバタ出ていくと、家の中はしんと静まり返った。


 奥の部屋からカンカンという音がして、真空の様子を見に向かう。

 途中で思い出したように振り返れば、どうしたらいいか分からない様子で立っている俊介と目が合った。


「えっと、もしよかったら……どうぞ」
「じゃあ、お邪魔します」


 今朝家を出たときは、こんな展開になるなんてまるで想像していなかった。

 キッチンで冷たい麦茶を注ぎながら振り返る。

 俊介がうちのリビングで座っていて、離れたところでは真空が楽しそうに積み木を触っている。

 なんの変哲もない日常のような光景は一生叶わないものとばかり思っていた。

 だから、まさかふたりの姿をキッチンから見る日がくるとは夢にも思わず、俊介がなにも知らないとはいえ感慨深かった。


「真空くん、だっけ」
「うん」


 我が子の名前を口にする彼に、麦茶のコップを置く手が震える。

 これが本当の家族の空間だと私だけが知っていた。


「いくつ?」
「もうすぐ二歳かな」


 すると、彼が驚いた顔でこちらを見た。