もうごめん、なんて言わないで



 なかなか話を切り出せず、アイスコーヒーにばかり手を伸ばした。


「その、話って?」
「あー、うん」


 心臓の鼓動が速まるのを感じる。


「なんか改まると怖いな」
「だよね、ごめん」


 苦笑いを浮かべて誤魔化し、ごくりと唾を飲む。
そろそろ話さなくてはと、意を決して話し出そうと息を吸った。

 しかし、テーブルに置いていた携帯が低い音を立てて震え出し、視線が移る。

 杏奈からの着信だった。


 一時間ほど前に『頑張れ』と送り出してくれたばかりで、今は真空の面倒を見てくれているはずだ。

 滅多なことがない限り電話なんてしてこないのに、なにかあったのかと一気に不安がつのる。

 彼に断りを入れ、携帯を耳にあてる。

 電話の向こうでは杏奈が激しく動揺していた。


「私帰らなきゃ」
「え、なに」


 電話を切ってすぐに急いで店を出た。

 マンションへ帰り玄関を開けた途端、大きなボストンバッグを手にした彼女が血相かいて飛んできた。


「美亜、本当に本当に本当にごめん! せっかく出かけてたのに」
「杏奈落ち着いて。大丈夫だから」
「うん。あ、青山くん……」


 玄関先で落ち着かせていたら、背後にいる俊介に気づいた。

 靴を履きながら申し訳なさそうに眉尻を下げる。


『どうしよう美亜。お母さん、倒れて救急車で運ばれたって』


 取り乱す杏奈から連絡を受けて急いで外へ出たら、追いかけてきた彼が車で送ると言ってくれた。