俊介の真剣な表情が今も頭から離れない。
私はあの目を、あの言葉を、そのまま信じていいのか分からなかった。
「勘違いだって思い込むのは簡単だし、傷つかない安全な場所に逃げるのも簡単。だけど美亜はそれでいいの?」
不意に、寝室で眠っている真空の顔が思い浮かぶ。
あの子のことを考えたら父親と一緒にいられるのが一番いいに決まっている。それになにより、私も――。
「はっきりさせておいでよ」
しばらく考えたあと、ゆっくり頷いた。
いつものらりくらりと誤魔化されてしまい、ちゃんと俊介の気持ちを聞いたことがなかった。
ラスベガスでの夜、勇気を振り絞って一歩踏み込んだのに、俊介は【ごめん】とだけ残していなくなった。でもその理由も聞けていない。
真実を受け止めるのが怖くて逃げてきたけれど、最後にもう一度だけ聞いてみたいと思った。
「これでお父さんともちゃんと話せるといいね」
私はその言葉に固まった。
杏奈は複雑そうな表情で、おやすみ、とリビングを出ていく。私はなにも言わず作り笑いを浮かべた。
ひとりになった部屋の中で、携帯を手に母とした最後の会話を見返す。
【本当はお父さんだって心配してるんだからね】
一ヶ月前、既読をつけたまま返していなかったメッセージが取り残されている。
私はしばらくぼぅっと見つめたあと、静かに画面を暗くした。