「もう付き合ってたりして!」
「いやいやいや全然。たまに食事してるだけです」
「えー、怪しい」


 ユキさんは口を尖らせ、なんだあ、と口にする。


「まあ真空くんの新しいパパになるかもしれないんだし、色々慎重にもなるかあ」


 新しいパパ――。
 笑って誤魔化しながらも心の中は騒ついていた。

 私の恋愛はもう真空なしには考えられない。誰かとの未来を見るということはあの子に父親ができるということ。

 もし旭先生ともう一度。
 そう考え出したら本当にこのままの関係を続けていていいのか分からなくなる。


「お疲れ様でした」


 持っていたカルテを片付けて二階へ続く階段を上がりながら、大きくため息が出た。

 好きになりたいと前向きに考え始めたはずだったのに、一緒にいる時間が増えれば増えるほど虚しくなってくる。

 相手が俊介ではないという現実を突きつけられている気がした。

 今頃、香織さんとのパーティーの準備で忙しくしているだろうか。それとももう、盛大に祝われたあとだろうか。

 ロッカーに置かれた鏡に映る。

 旭先生とのディナーに行くため着飾った姿は、どこか自分ではないような気がした。

 ゆっくり階段をおりていくと、ユキさんがカウンターから身を乗り出し外を見ている。