俊介と再会するかもしれないと分かってから、彼のことばかり考えるようになった。

 もう忘れられたと思っていたはずなのに、自分でも気づかぬうちに不毛な恋を引きずっていたみたいだ。

 旭先生と中途半端な気持ちのまま付き合い続けては、真剣に想ってくれている彼に失礼だと、素直に気持ちを打ち明けた。

 それなのに、まさか他の人の子供を産んだ今でも好きだと言ってくれるなんて、私には勿体ない人だ。


「少しずつでもいいですか」


 ぼんやりと旭先生を見ながら言う。

 彼は真空を高く持ち上げたまま、驚いたようにこちらを向いた。


「正直まだ忘れられてないんです。でも旭先生といたら、きっと幸せになれるんだろうなって思います」


 旭先生と、真空と私。
 一瞬、幸せな家族の絵が想像できた気がした。

 彼は誰よりも私を大事にしてくれる。真空のことも愛してくれている。それ以上に幸せなことはないと、頭では分かっていた。


「もちろん、ゆっくりでいい」


 旭先生は真空を抱いたままベッドに腰掛け、私の手をとる。


「四年も待ったんだ。答えが出るまでいくらでも待つよ」


 昔、愛するより愛される方が幸せなんだと、誰かが言っていたのを思い出す。

 私だけを見てくれる彼の気持ちに応えたい。好きになりたい。その気持ちだけは本物だった。