「帰ってくるまで見てるからもう少し休んでなよ」
「あ、でも」
「ほら、まだ熱あるし」


 彼の長い指が自然と首元に触れた。

 ボッと火がついたように顔が熱くなると、彼にも伝染したように慌てて手を引っ込めた。


「いや、ごめん。おでこが空いてなかったから」


 剥がれかけていた額のシートを直しながら、目を泳がせる。

 危うく真空がいるのを忘れるところだった。


「それと、昨日はごめん」
「え?」
「色々悩んでるところにあんな話。弱みにつけ込んだみたいでよくなかったなってあのあと反省したんだ。今日はそれも謝りたくて」


 私は静かに首を横に振る。

 先生の腕の中できゃっきゃと楽しそうに笑う真空の声が室内に響き、重くなりかけた空気は純粋無垢な存在に助けられた。

「返事はすぐじゃなくていいから」


 旭先生はにっこりと笑顔を作った。


「色々と先走っちゃったけど、本気だってことをわかってほしかっただけなんだ。気持ちはずっと変わってないよ、って」


 真っ直ぐすぎる想いに戸惑いを隠せずにいる。

 すぐに真空と遊び出す彼の横顔を見つめながら気持ちは複雑だった。


 別れた原因はすべて私にあった。