くす、と笑った冬真は瑠奈の額に触れ、傀儡を解いた。
我を取り戻した彼女は琴音を見据えつつ、指先にツインテールの毛先を巻きつける。
「あーあ、ステッキがないと調子出ないんだけどなぁ」
ぼやきつつも強気な笑みをたたえ、冬真を振り返った。
「でもありがとう、冬真くん。見ててずっとうずうずしてたの……。やっと、琴音ちゃんを殺せる」
琴音に向き直った瑠奈は人差し指の先を彼女に向けた。
殺気立った鋭い眼差しを突き刺すと、何発も石弾を撃ち込んだ。
琴音はその場から動けなかった。
慧はとっさに、まとわせた稲妻を瑠奈に放つ。
「!」
バチッ! と鋭い音が響き、眩い光がひらめいた。
悲鳴を上げた瑠奈は昨晩と同じように、意識を失ってあえなくその場に崩れ落ちる。
しかし、石弾は止まらなかった。
勢いよく迫るそれが、琴音の見開いた瞳に映る。
「……っ」
ふいに視界を何かが横切った。
飛び出した慧は石弾に背を向け、琴音を抱き締めるようにして庇う。
その背中に、石弾が次々に直撃した。
銃弾と遜色ない威力で突き刺さる。
「は……っ」
「望月!」
よろめいた慧を慌てて支えた。触れた彼の背はあたたかく濡れていた。
苦しげな息を吐き出せば、一緒に血があふれる。
「望月! 大丈夫!?」
瑠奈が気絶したお陰で琴音の石化は解けていった。
両手で支えるも及ばず、慧は地面に崩れ落ちる。
じわじわとアスファルトが血を吸い込んだ。
酸素を求めて浅い呼吸を繰り返す、慧の顔がみるみる色を失っていく。
内臓まで深く損傷してしまったらしく、身体の内側をかき混ぜられるような苦痛に見舞われる。
琴音はしかし冷静さを欠く前に、コツ、と硬いローファーの足音を聞いた。
何よりも、まずは冬真を何とかしなければならない。
立ち上がるなり勢いよく地を蹴った。
「……!?」
冬真は息をのむ。眼前に突然、琴音が現れたからだ。
しまった、と思う頃には遅かった。
素早く右手をかざして触れると、彼が目の前から消えた。
────息を吐く。思い出したように呼吸を再開する。
空気の凪いだような静寂が、現実感を奪い去っていく。
琴音は駆け寄って瀕死の慧を抱き起こした。
「望月、どうして……っ」
声は震えていた。指先も震える。
恐ろしく怖い。
彼がどうなってしまうのか想像すると、震えが止まらない。



