「げっ、もうかよ。つか“そうじゃない”って何だ?」

「最終的にこの高架下に皆を集めるってこと、桐生は知ってたんじゃないか」

 二人の姿を認めた蓮が目を逸らさないまま尋ねると、慧が淡々と可能性を示唆した。

  本来の意図でなくとも、この状況を作り出したのは大雅なのだ。

 琴音とコンタクトをとり、事前に把握していたのだろう。

「そんなこと今はどうでもええ! どうすんねん、これ」

「琴音ちゃんがこの状況じゃ逃げるのもすぐ限界だね……。応戦するしかないんじゃない?」

 迫り来る大雅と瑠奈をその目に捉え、アリスと奏汰が言った。

 小春は、先ほどのように琴音を浮遊させて抱え、自身もともに空中に留まることでやり過ごそうかとも考えた。

 しかし、それを十二時間も続けていられるとは思えないし、大雅たちが地上にいる他の仲間たちに手出ししないとも限らない。

 飛んで逃げ回ったとしても、絶対的な命令に突き動かされている二人は地の果てまで追ってくる────小春が限界を迎えたとき、琴音を守る術がない。

 奏汰の言う琴音の状況とは、そういうことなのかもしれなかった。

 今は彼女の魔法があてにならない、ということである。瞬間移動が出来るのなら、逃げるのも容易なのだが。

「悪ぃ……、皆」

 眉根に力を込め、大雅は全員に謝った。

 こんなことしたくないのに、という切実な思いがひしひしと伝わってくる。

 思い通りにならない身体は、勝手に琴音や仲間たちを敵と認識してしまう。

「あはは、やっぱ瀕死だ! 琴音ちゃーん、トドメを刺しに来たよ」

 瑠奈はステッキをくるくると回し、楽しげに笑った。

 彼女の場合は、絶対服従の術などかけられておらずとも琴音を付け狙うだろう。

 小春は地面に膝をついたまま、琴音を背に庇った。

 それをさらに庇うように、他の面々も臨戦態勢をとる。

「あーあ、あたしたちが殺したいのは琴音ちゃんだけなのに……。邪魔するつもりなら、君たちも抹殺対象に入っちゃうよ?」

「うるせぇ。やれるもんならやってみろよ」

 蓮は凄みながら返した。

 瑠奈は怯まず、くすくすと笑いながらステッキを構える。

「おっけー、お望み通りにしてあげる」

 ステッキの先端から銃弾のような石が飛び出し、全員に向け飛んでくる。

 奏汰は咄嗟に氷の壁を作り出し、バリアのようにして防いだ。

 ガガガガッ、と石弾(せきだん)が氷壁にめり込む。

「危ねぇ……。ナイス、奏汰」

「大丈夫。石化魔法って聞いてたけど、そんな技もあるんだ」