「路上で溺れた。……おまえの水魔法によってな」
高圧的に慧が言うと、彼の瞳が揺れる。
「僕の魔法……」
“魔法”という非現実的なワードに驚いたわけではなさそうだ。
魔術師であることを隠す気はないらしい。もっとも、もう誤魔化しようもないのだけれど。
「僕が陽斗を襲うはずないよ」
「あら、結果が物語ってるじゃない」
「でも、ちがう。僕じゃない!」
「本当に瑚太郎くんの仕業じゃないの……?」
不安気な小春の言葉に強く頷く。
「うん、僕じゃない。信じて」
吟味するように彼を見据えたり、顔を見合わせたりと、どう捉えるべきかそれぞれが思い悩んだ。
瑚太郎が真実を口にしているとしたら、いったいどういうことなのだろう。
「あの、それで……陽斗の意識は戻ってないの?」
「ああ、悪い。あのメッセージは、おまえを誘い込むために僕が送ったものだ」
「見ての通り、甲斐くんは眠ったままだよ」
奏汰が肩をすくめた。その視線につられるように陽斗を見下ろす。
「そっか……。本当にごめん、陽斗」
その言葉に琴音は訝しんで顔を上げた。
「どういうこと? やっぱりあなたが襲ったの?」
「あ、いや……。水魔法なんだとしたら、何か他人事とは思えなくて」
陽斗への襲撃については否認の態度を貫くつもりのようだ。
引っかかりは拭えないものの、悪意は感じられない。
それぞれがそんな印象を抱いたとき、瑚太郎は全員に向き直った。
「みんなは僕についてもう知ってるかもしれないけど、改めて……僕は早坂瑚太郎っていいます。陽斗と同じクラスで、水魔法を持ってる」
蓮は思わず顔をしかめた。
陽斗のコピーによる水魔法を目の当たりにしたときのことを思い出しているのだろう。
“天敵”という事実を再認識する。
「そんな露骨に嫌がらんでも……」
どこからか聞こえた関西弁に周囲を見回せば、小春の鞄から顔を覗かせたアリスが苦笑していた。
「いたのかよ」
「いつの間に……」
驚く面々に構わず、アリスはベッドの上に飛び降りる。
「あ、話の腰折ってごめんな。ぜんぶ聞かせてもらったわ。あたしは有栖川美兎、アリスでええよ。ほんで、この子は────」
アリスはこの場にいる全員の素性と異能を、制止も無視して明かしてしまった。
彼が信用に値するか分からないいま、特に蓮は弱点を隠しておきたかったのに、アリスは自分勝手なマイペースさを発揮していた。
「おい、おまえ……」
「火炎魔法ってことは────」



