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 冷たい風の吹き付ける真夜中。

 星ヶ丘高校の屋上で、如月冬真(きさらぎとうま)は深い藍色の空を見上げていた。

 柵のない屋上の縁に悠々と腰を下ろし、生と死の境界を実感する。

 カチャ、と不意にドアノブが回る音が聞こえたかと思うと、キィと鉄が軋み、屋上へ誰かが姿を現した。

「おかえり、ご苦労さま。収穫はどう?」

 冬真の傍らに立っていた佐久間律(さくまりつ)が人影を出迎える。

 声色とは打って変わって無表情だった。

 微動だにしない律の目には何の色もなく、さながらマネキンのような不気味さがあった。

「あー、駄目だな。今日もお前の探す魔術師は見つかんなかった」

 人影もとい桐生大雅(きりゅうたいが)は、気怠げにそう答える。

「そっか、残念……。やっぱり一筋縄ではいかないよね」

 言ったのは律だが、それに合わせて表情が動いたのは冬真だった。

 大雅は改めてその様を眺め、しみじみと呟く。

「……便利なもんだな、お前の“傀儡(かいらい)魔法”。代償で失った“声”も相殺じゃん」

「まぁね。でも、そうとも言い切れないよ。僕の魔法には声が必要不可欠だからね」

 代償で声を出せなくなった冬真だが、魔法により誰かを“傀儡”にしてしまえば、声を借りて会話をすることが可能だった。

 今も、傀儡にした律を介して話していた。つまり、律の発言は冬真の言葉なのだ。

「それで言えば、君こそいい魔法を引いたよね。唯一、魔術師を見分けられる……」

 大雅にかかれば、一目見ただけで魔術師か否かを判別出来る。

 無論それだけでは、相手の保有する魔法は分からないが、大雅はそこまで特定する術を持ち合わせていた。

「お陰で僕も助かってるよ」

 冬真は自身より強力な魔法を有する魔術師を探していた。

 具体的には、時間操作や空間操作といった魔法を操る魔術師だ。

 冬真の魔法も強力だが、やはりそれらの前では限界が生じる。

 本領を発揮するには、有利な環境を作り出さなければならない。

 そして、そのために、また別の“とある魔法”を有する魔術師を捜していた。

 彼または彼女が見つかれば、冬真は限りなく最強に近づく……。

「何処にいるのかな。硬直魔法の持ち主は────」

 冬真の唇が弧を描く。冷え切った風が髪を揺らす。

「……とりあえず、続けるか? 地道な魔術師探し」

「そうだね、大雅に頼り切りになるけど」

「別にいいよ、大した負担でもねぇし。一年は網羅したから、次は二年だな」

 大雅は両手をポケットに突っ込み、ぶっきらぼうに言う。

 月明かりに反射し、左耳のピアスが光った。

 ────大雅たちは魔術師を特定し、その魔法を割り出すことで、魔術師のリストを作っていた。

 少なくともこの作業は、冬真の目的の魔術師が見つかるまでは続くのだろう。

 当面は手っ取り早い星ヶ丘高校生を中心に捜しつつ、他でも見かけ次第特定していく形だ。