霊媒師はそう言うと、くるりと傘を回す。

「あ、そうそう。ついでに代償についても教えてあげるね」

 ────本来、魔法即ち異能は、人間が扱えるような代物ではなく、人間は天界へ足を踏み入れることも許されていない。

 しかし、魔法と引き替えに代償を払うことで、天界への“切符”を買うこととなる。

 また、代償のお陰で、陰陽師の力を借りることが出来、人間でも魔法に耐えられる身体になる。

 そのためにゲーム中、魔法の会得には必ず代償が必要となり、一つ目の魔法はガチャからしか手に入れられない縛りがあったということだ。

「……そういうわけだが、これでもまだ我々に楯突く気があるか?」

 燃えるような陰陽師の紅い瞳に捉えられる。

「…………」

 小春は呆然と四人を見た。

 ……ああ、これで振り出しだ。そう思った。

 いや、違う。こちらは自分以外の仲間をすべて失った。

 しかし、その犠牲も結局は無意味だったのだ。

 命を懸けて戦ったのも、無駄だった。

(傷が癒えるとかいう次元の話じゃない……)

 こんなふうに蘇ることが出来るなら、何度倒したって仕方がない。

 ぜんぶ意味がない。何もかも無駄。

(何のための戦いだったの……?)



「何はともあれ、ミナセコハル。おめでとう〜! キミは見事、新たな魔術師に選ばれました!」

 祈祷師はそう言い、ぱちぱちと拍手する。

「え……?」

 小春は眉を寄せた。

 陰陽師の話では、ここ数か月の出来事は予選であり、序の口だという解釈だったのに。

「それがね……実は、他では唯一の生存者がいなかったんだ。皆、期日までに決着がつかずに強制終了(皆殺し)ってパターンがほとんどかな」

 小春の困惑を悟った呪術師が言う。

 実際、期日までにたった一人の生き残りになることなどほとんど不可能な所業であり、これまでに達成した者はいない。

 つまり、東京以外に高校生はもう存在していないのだ。

 しかし、小春たちもそのことにまったくもって気が付かなかった。知らなかった。

 洗脳されているのは、小春たちも同じだった。

「あんたたちみたいに直接挑んできた奴もいたけど、返り討ちに遭ってゲームオーバー。まぁ、あんたからしたら仲間を失って自分だけが生き残る、って後味の悪い最悪の結末かもしれないが、実はこれは凄い結果なんだ」

「ホーント、まさか君が生き残るとはね」

 霊媒師は同調し、じっと小春を見やる。

「コハルちゃん。魔術師になってボクたちの仲間になるってことで、キミも妖になって貰うからね。あ、キミは別に何もしなくていいよ。陰陽師に任せといて」

 祈祷師は、ぽん、と小春の肩を叩いた。

「この身体は便利だよー。魔術師になったら、君も制限なく異能を使えるから安心してよね。大抵の傷は即治癒するし、不老不死だし、人間が如何に弱っちい生き物か思い知るよ」

 霊媒師がそう言うと、陰陽師も口を開く。

「貴様のことは気に食わないが、我々も規則には従わねばならぬ」

 彼は淡々とした声色で続けた。

「祈祷師の言葉通り、唯一の生存者となった貴様には、魔術師となり天界にて明かし暮らす権利が与えられた。それに伴い、そなたを妖とす」

「…………」

 小春は何も言わず、呆然と俯いた。

 もう、頭も心も空っぽだ。

 色々な感情が一気に湧き起こり、そして今は一気に凪いだ。

 蓮も皆も、誰もいないこんな場所で、永遠に生き続けることに何の意味があるというのだろう。

 いっそのこと、もう死んでしまいたい。
 彼らと一緒に死んでしまえばよかった。

 そうしたら、独りにならずに済んだのに。

(こんなこと考えてたら、蓮に怒られるかな……?)

 ああ、でも本当に……心からそう思う。

「ほい」

 祈祷師が手を差し出す。

 ほらほら、と催促され、小春が反射的に手を伸ばすと、引っ張り立たされた。

 彼は小春の手を引き、陰陽師のいる玉座の方へ連れていく。

 ……もうどうでもいい、どうにでもなれ、と正直投げやりな気持ちになっていた。

 そのとき、不意に小春の頭の中に蓮の最期の言葉が蘇る。

『絶対、諦めるな』