最低だ、と思った。

 仲間を守るためだったはずが、自分を守るためのものになっていた。

 殺さない理由を作りたかっただけなのではないか。

 それを周囲に押し付けることで、自分だけに伸し掛る負い目から逃げたかったのではないか。

 仲間を傷つけてまで、死なせてしまってまで、守りたかったのは自分自身……?

(本当に最低だ、私……)

 ぽろぽろと涙があふれる。息が苦しい。

「……私のせい。ぜんぶ私の。皆が死んじゃったのは、ぜんぶ私が悪い」

 無責任な信念を無理強いして、取り返しのつかない事態へ追いやった。

「お前のせいじゃ────」

 思い詰める小春を慰めようと蓮が手を伸ばしたとき、それより先に瑠奈が小春の腕に触れた。

 自分に向き直らせると、思い切り平手打ちする。

「!」

 突然のことに驚き、頬の痛みは後からやって来た。じん、と痺れて熱くなる。

 蓮も奏汰や紗夜も、瑠奈の行動に驚愕した。

「何のつもりだよ」

「あたしは小春ちゃんに感謝してるの」

 毅然と、瑠奈は言う。

「小春ちゃんのお陰でゲームに飲まれずに済んだ。……ううん、一時は飲まれたけど戻ってこられた」

 我を見失わずに、自分を取り戻せた。

 瑠奈は目に涙を溜める。

「確かに償いきれない過ちを犯した。でも、小春ちゃんのお陰で間違いに気づけた。慧くんや琴音ちゃんに贖いながら生きていかなきゃって思った。小春ちゃんの優しさに生かされたの!」

 小春の手を取った。その双眸を見据える。

「間違ってなんかない。否定しないで」

 そんなふうには考えたこともなかった。

 小春の瞳が揺れる。

 冷たく凍てつき、自責の念でがんじからめになっていた心が溶かされる。

「……そうだよ、瑠奈ちゃんの言う通り。小春ちゃんが自分を責めて、やってきたことを否定したら、死んじゃった皆が報われない」

 奏汰が同調した。

「君に従っただけじゃない。皆、どうするかは自分の意志で選んだ。だから、小春ちゃんがそれを悔いるのは、違うんじゃないかな」

 小春は息をのんだ。目を見張った。

 ────そうか。それこそ無責任だ。

 皆の選択を、答えを、尊重すべきだ。

 残った仲間を信じて託した結果なのだから。

 生き残っている者がするべきことは、悔いたり自分を責めたりすることじゃない。

 命を賭けて使命を果たすしかない。

「ごめん……。そうだよね、報いなきゃ。皆を裏切るわけにいかない」

 小春は涙を拭い、決然とした表情になる。

 程なくして、紅とアリスの遺体は眩い光とともに消えた。



 これで残りは十人となった。ここにいる六人と日菜、そして名花高校の魔術師三人だ。

 大雅の言っていた通り、死の連鎖は続いている。

 次に命を落とすのは自分かもしれない。

 誰しもがその覚悟をしておくべきだろう。

「……色々、話し合いたいよな。もう最後だし」

 蓮が静かに言った。

 “最後”という言葉の重みが伸し掛る。

「そうだね」

 運営側との戦い────それがまだ、この先に控えている。

 その最終決戦に向け、作戦を練っておかなければならない。

 悲しむのは、すべてが終わった後でいい。

「とりあえず落ち着きたいし、紅の家に戻るか」

 主はいなくなってしまったが、荷物もあるためどのみち戻らなければならない。

「あ、鍵……どうしよう」

 紅が持っていたはずだが、彼女の遺体は既に消えてしまった。

 困った、と何とはなしに周囲を見回した小春は、ふと重みと異物感を覚えた。

 ポケットの中に何かが入っている。

 上から触れると、ちゃり、と音がした。

 もしや、と思い取り出してみると、まさしく鍵だった。

(紅ちゃん……)

 時間停止中の紅の仕業だろう。とっくに先を見越していたようだ。

 小春はぎゅっと鍵を握りしめる。

 連絡を取って日菜とも合流し、一行は紅のマンションへと向かった。

 その前に彼女には、メッセージアプリでここ数日の出来事と冬真の事情を伝えておいた。

 至の死にはショックを受けたようだったが、すぐに事実として受け入れていた。

 立ち止まってはいられないことを、よく理解しているのだ。