「……マジか」

 冬真からのメッセージを受け取ったアリスは呟く。

 別行動をしていたのは、紅の捜索に向かっていたためだった。
 冬真が先に見つけてしまうとは。

 いよいよまずいだろうか。

 彼に“使えない”と判断されれば、容赦なく殺されるだろう。特にアリスのような人間は。

 とはいえ、紅が見つかったのは幸いと言うべきだ。何とかして殺さなければ。

 そんなことを考えながら足早に河川敷へと向かった。



「……?」

 目に入ってきた光景に困惑してしまう。

 冬真が小春たちと一緒にいるのだ。

 傀儡や絶対服従で従わせている様子も、小春たちが冬真を人質に取っているような様子もない。

「どういうことや? 何でそいつらとおんの?」

 眉を寄せ、怪訝な顔で尋ねる。

 冬真の性分は知っている。彼が小春たちに味方する謂れはない。逆も然りだ。

 つまり、アリスが嵌められた、ということはありえないはずなのだが。

「冬真くん、アリスちゃんを拘束して」

「!?」

 小春の言葉に応じた冬真が、アリスに向かって蔦を伸ばした。

 しゅるりと巻き付き、捕縛される。

 何がどうなっているのだ。
 何故、そうも友好的なのだ。
 何故、冬真はそうも小春たちに素直なのだ。

 わけが分からない。

 混乱が拭えないながらもアリスは巨大化し、蔦をちぎって裂いた。
 易々と拘束を抜け出す。

「ね、ねぇ。この二人会わせてよかったのかな……」

 はたと思い至った瑠奈は不安そうに小声で呟く。アリスと冬真だ。

 記憶の懸念が再燃する。

 アリスがここへ着く前に、冬真のことは匿った方がよかったかもしれない。いや、確かにそうすべきだった。

「今さらどうしようもねぇよ……」

 油断なく二人に目をやりながら、蓮も声を抑えて返した。

 アリスは冬真を見据える。

「なぁ、何があったん? 桐生や佐久間は? その地面の血は……?」

 それを受けた冬真の動きが止まる。

 そんなこと、何故自分に聞くのだろう。

「おい、聞く耳を持つな! もっかい拘束しろ」

 蓮が慌てる。

 冬真は再び蔦を巻き付けたが、アリスは、今度は矮小化し回避した。

 彼女に蔦による拘束は効かないようだ。

「無駄無駄! どうせ無理やろうから教えたるわ、あたしの魔法のルール」

 巨大化も矮小化も、所有権が自分にあるものは本人とサイズが連動する。

 例えば衣服や靴が代表的な例だ。

 それ以外は本来のサイズのままだった。

 つまり彼女を拘束し、尚且つ抜け出すのを防ぐには、アリスの持ち物を使わなければならないということである。

「どうするの……」

 紗夜が誰にともなく尋ねた。

 見たところ、当然ながら拘束に使えそうなものなどアリスは持っていない。

 ひとまず拘束の手を弾き返すことに成功したアリスは、注意深く冬真を眺めた。

 小春たちと見比べる。

 彼ら彼女らが演技をしているようには見えない。

 ……はっと閃いた。

 冬真にあれこれと尋ねるのを阻んでくること、冬真の態度が百八十度変わったこと────。

 地面に残る赤黒い血溜まりを見た。

(まさか、佐久間……?)

 冬真は記憶操作をされているのではないだろうか。

 そう考えれば、この不自然な現状にも合点がいく。

 大雅と律と相対した冬真は、試合に勝って勝負に負けたわけだ。

 ────しかし、律の記憶操作は不完全だと聞いた。

(……あたしが思い出させたるわ)

 アリスは目を細め、冬真を見据える。