はっとした蓮は、急いで顳顬に触れた。

「待てよ、早まるな! 前にも言ったろ。勝手に背負い込むなよ!」

 テレパシーを繋いで叫ぶが、大雅からの応答はなかった。

 無視しているのか、答えられない状況なのか、心配と焦りは募る一方である。

 本当に馬鹿だ。何故そうなるのだろう。何故そんな選択をするのだろう。

 何処にいるかも分からない。状況も分からない。

 助けに行こうにも行けないではないか。

 ……しかし、あえてそんな状況を作り出したのだろう。仲間を巻き込まないために。

「行かなきゃ……」

 小春は迷わず立ち上がった。

「私が上から捜す」

「だが桐生氏はあえて詳細を語らなかったのだろ? ならば警戒して、空からでも見える位置にはいないのではないか?」

 至極冷静な紅の真っ当な意見に、小春は俯いた。

 ならば、どうすればいいのだろう。
 もう、諦めたくないのに。

「大雅くん……。お願い、考え直して。私たちは仲間じゃないの?」

 小春は顳顬に手を添え、語りかけた。

「記憶のことも直接お礼を言わせてよ。このままお別れなんて嫌。大雅くんはいつも、自分より仲間のことを考えてる。人のために、自分を犠牲にし過ぎだよ……!」

 沈黙が続いた。

 届いていないのかもしれない、と不安になるほど長い静寂だった。

 それでも小春は毅然とした表情を湛えたまま、ひたすら彼からの言葉を待った。

『……お前もな、小春』

「! 大雅くん……!」

 思わず息をのむ。泣きそうになった。

 声はちゃんと届いていた。

『つーか、もともと俺たちそんな奴ばっかだろ』

 慧にしても、琴音にしても、至にしても。今生きている仲間たちにしても、一様にそうだ。

 大雅は儚いような、微かな笑みを浮かべる。

「大雅くん、聞いて。律くんと行くなんて無茶だよ。お願いだから早まらないで。また守れなかったら、私────」

『充分守って貰ったぞ、俺。……でも、分かった。そんなに言うなら、いざというときはまた助けて貰ってもいいか?』

 小春は顔を上げ、思わず安堵の息をつく。

「当たり前だよ! 何処に行くつもりなの? 何をするの?」

『……星ヶ丘高校』

 一拍置き、大雅は静かに答えた。

『勘違いすんなよ? ただ瑚太郎と話つけるだけだ。学校なら人も多いし、もしヨルに乗っ取られても迂闊に手出し出来ねぇだろ。関係ねぇ奴巻き込んでペナルティだ』

 尤も、ヨルにそういう自制心があるかどうかは分からないのだが。

「そっか……。星ヶ丘に、律くんも入れるの?」

 他校生である律が、もっと言えば自分たちも、出入り出来るのだろうか。

 琴音の瞬間移動でもあれば別だったが。

『ああ、実は今うちの学校、旧校舎の方からなら誰でも入れるんだよな。フェンスが壊れてる』

「そうなんだ……。分かった、じゃあ蓮たちと行くから、私たちが着くまで待ってて」

 小春が決然と告げると、大雅は頷いてくれた。

『おう。……じゃあな』

 彼とのやり取りを終えた小春は、蓮たちにその目的と行き先を伝える。

 それを聞いた蓮は、ほっとしたように表情を緩めた。

「勝手なことしやがって。……でも、頼ってくれてよかった」

 一連の流れを見聞きした紅は、視線を宙に向ける。

 何処となく腑に落ちない感を抱きつつも黙っていた。