振り返ると、和服のような漢服のような衣装をまとった男がいた。
闇のように黒い長髪と、血のような紅色の瞳。
直感的に、彼こそが陰陽師だと分かった。
「わたし……」
小春は警戒しつつも、戸惑いをあらわにする。
深淵の常闇を永遠と落下しているような気がしていた。
あのまま落ちた先に叩きつけられて死ぬか、破片の下敷きになって死ぬかと思っていたのに。
(助かったの……?)
「あれは言わば、精神世界……。物理的な崩壊ではないゆえ、そなたはこうして無事というわけだ」
小春の心を読んだかのように彼は答えた。
何だか抽象的な話だ。
「蓮は……? みんなは……」
呟くように尋ねると、陰陽師はおもむろに指を鳴らした。
宙にガラスの塊のようなものが無数に浮かび上がる。
恐る恐る立ち上がって近づいてみると、肘から指先ほどの大きさのそれぞれに人の顔が見える。
まるで氷漬けにされているかのようで、一様に目を閉じて眠っているように見えた。
ふと、その中のひとつに蓮の姿を見つける。
「蓮……! どうなってるの!?」
「みな、このゲームの死者たちだ。よく見てみろ、そやつ以外にも見知った顔がいるだろう」
あたりを見回すと、確かに失ったみんなの顔があった。
琴音や大雅、瑠奈、奏汰……ほかにもいる。
死者の魂とでも言うのだろうか。
圧倒されながら、思わずあとずさった。
ガラスの塊はそこらじゅうに無数にあって、遠くのものは霞んで見えない。
恐らくゲーム中の状況も、こうしてガラスに投影して把握していたのだろう。
「こんなに、たくさん……」
「これでもほんの一部だ。彼ら彼女らは、“東京戦”の犠牲者たち。そのほかも合わせればこの空間が埋まる」
言っている意味が分からず、思わず眉を寄せる。
“東京戦”だなんて、まるでここ以外でもこのゲームが行われていたような言い方だ。
「ゲームは時期をずらし、全国で予選を行っていた。東京が最後だったのだ」
「全国……予選?」
陰陽師は小春の心情を一切無視する形で続ける。
「我々の目的はただひとつ。“新たな魔術師”を決めることだった」
「なに、言ってるの? 意味が分かんない……! 魔術師って、だってわたしたち────」
理解が追いつかない。話についていけない。
自分たちは魔術師だ。
その中の頂点を決める、と言うならまだ話は分かる。
けれど、陰陽師の口ぶりはそうではない。
「……天界と我々の実態について改めて話そう」
陰陽師は悠然と水の上で歩を進める。
「天界は、簡単に言えば異空間。別に人間界より上に存在する、神々の住処というわけではない。我々の呼び名にしても同様、実際にその役割を担ってるわけではない。ただ、呼び名がないと不便なのでな、いまの呼称に落ち着いたに過ぎない」
滔々と語る彼に気圧され、小春は口をつぐんでいた。
「そして、少し前まで……わたしと祈祷師、呪術師、霊媒師のほかに、もうひとりの者がいた。それが────魔術師」
「……!」
「この異空間はその5名が揃わなければ、空間の存在を保っていられない。それぞれが、次元を保つ歯車なのだ」
何となく、ぼんやりと話の輪郭が見えてきたような気がする。
先ほど一度世界が崩壊したのは、歯車がひとつ欠けているからかもしれない。
「知っての通り、我々は人間ではない。妖とでも言っておこうか」
「あや、かし……」



