「はぁ……はぁ……」
小春は肩で息をしていた。
頬や腕、脚に刻まれた切り傷からぽたぽたと血が滴り落ちる。
苦しい。苦しくてたまらない。
反動のせいだけでなく、祈祷師の狙い通り精神攻撃の賜物だった。
「ふふふ。あえて目を背けても、現実は変わらないんだよ? コハルちゃん。────キミさぁ、何人死なせるの?」
祈祷師の笑みが、言葉が、心を抉る。
「死なせたくない、守りたい、とか言うキミが一番死神じゃない? キミのせいで命を落としたお仲間たちは、キミが殺したも同然だよ。ねぇ、理想も綺麗事も命の前では無価値なの。キミの正義は、みんなを殺す刃だ。なのに……いつまで夢見ちゃってるのかなぁ?」
「……っ」
確かに自分のせいで犠牲になった仲間たちもいた。
何度も悔しい思いをした。
彼ら彼女らは自分を恨んでいるだろうか。
到底実現できないような甘い理想を追い、正義を盾に綺麗事ばかりを並べ、仲間の命をおろそかにした自分を────。
「キミが償う方法はさ、ひとつしかないよね。いくら鈍感で夢見がちなコハルちゃんでも、さすがに分かるんじゃない?」
祈祷師が指を鳴らすと、その手に蔦が現れた。首吊りロープの形に結ばれている。
彼の軽薄な笑顔が、いまはひどく冷酷に見えた。
「よかったね。キミにとって、死は救済だ」
「……!」
不安定な呼吸が震える。
彼の言葉に飲み込まれていく。
死んだ仲間への贖罪。
それは、自分の命を差し出すこと……?
────そのとき、ぼっと蔦が燃え上がった。
「くだらねぇこと言ってんじゃねぇよ、狐野郎。その仮面は皮肉か?」
低く言った蓮は鋭く睨みつけた。
祈祷師は一瞬真顔になったものの、再びにんまりと笑う。
「蓮……」
「俺だって悔しい。守れたはずの奴は何人もいる。俺のせいで死んだ親友だっている」
言葉にすると自己嫌悪に陥りそうになるけれど、その親友の最期の言葉を思い出してかぶりを振る。
小春の腕を引くと、迷子のように彷徨うその双眸を見やる。
「大丈夫、惑わされるな。仲間たちは誰ひとり、おまえを恨んだり憎んだりなんかしてねぇよ。俺含めてな」
────いつだって、そうだ。
彼は沈んだ心をすくい上げてくれる。
「誰の犠牲もおまえのせいじゃない。みんな、自分で選んだ道だ」
そう言って前を見据えた蓮は、炎の宿る指先 を祈祷師に突きつける。
「おい、てめぇ。覚悟しろよ」
炎弾を撃ち込むと、ふっと彼の姿が消えた。
虚空を照らした炎は床や壁に着弾し、道を塞ぐように燃え盛る。
「!」
ぱっと背後に気配が現れ、反射的に振り向くと同時に人差し指と中指を薙ぎ払う。
刃のような風の斬撃が、祈祷師の腕を大きく切りつけた。
「く……っ!」
怯んだ隙に床を蹴って浮かび上がった小春は光弾を放つ。
それは彼の腹部を貫いた。
最初より明らかに動きが鈍い。
傷を押さえながら膝をついた彼に手をかざし、油断なく炎で包囲する。
その呼吸は浅く、どうやら回復も追いつかないようだ。
「ようやく、そのムカつくにやけ面が崩れたな」
「……はぁ、ここまでかぁ」
死の淵にいるというのに、祈祷師は最後まで暢気なものだった。
「おまえには借りがあるからよ……。ここで返せてよかった」
小春は指先 を構えながら歩み出る。
「あなたを倒したら……陰陽師に会えるの?」



