うららはそうして微笑んだまま息を引き取った。

 堪らず紗夜は慟哭する。

 それを聞きつけ飛び出してきた家政婦たちは、庭で起きた惨劇に悲鳴を上げた。

 紗夜は呆然としながらそんな騒ぎを抜け出し、大雅にテレパシーを送ったのだった。



 ────紗夜の話を聞いた一同は、沈痛な表情を浮かべたり、険しく謹厳な面持ちになったりと、それぞれ真摯に受け止めていた。

 うららがそんな最期を遂げたとは、さぞ無念だったことだろう。

 彼女だけでない。これまで犠牲になった者全員がそうだ。

 小春は眉を寄せ、涙を拭った。

「……植物魔法、か」

 大雅が呟くと、紗夜は顔を上げる。

「心当たりあるの……?」

 全員の脳裏に先ほどのことが蘇る。

 ────山中の廃屋。男子生徒の遺体。殺された至。

 蓮は硬い声で言う。

「……冬真だ」



*



 百合園家を飛び出した依織は、付近の建物の屋上へ駆け上がる。

 小さな町工場のような場所だ。屋敷を見下ろせるそこには冬真とアリスが待機していた。

「おかえり。復讐達成おめでとう」

 遺体を介し、冬真が言う。

 依織の不気味な笑いが一層深まった。

 何はともあれ、その点は喜ぶべき事実である。

「ぜんぶあんたのお陰だよ! 手を貸してくれてありがとう」

 崇めるような眼差しを向け、依織は深く感謝した。

 うららへの復讐は唯一の願望でありながら、半ば諦めてもいた。

 無魔法の自分には為す術などないはずだった。

 そんな無力な自分に手を貸してくれ、恨みを晴らす一助となってくれた冬真は、依織にとって救いの神のように思えた。

 彼は満足気に微笑む。

 冬真としても、向こうの仲間は減らしておきたいところだった。

 そのために、依織の存在、その復讐心はちょうどよかった。

 うららの魔法は割と強力なのだ。身をもって経験したし、さらには魔法を奪えてしまう厄介な能力でもある。

 しかし、それも最早過ぎた話だ。

 依織のお陰で脅威は天界へと還った。

 まさか無魔法の魔術師が役に立つとは思わなかったが。

「……っ、う」

 不意にたたらを踏んだ依織が咳き込み、血を吐いた。

 みるみるうちに肌の色が青白くなり、血管が浮き出始める。

 紗夜の毒が回り始めたのだ。

 だんだんと呼吸が浅くなる。息を吸っても肺が膨らまない。

 手の先が痙攣していた。
 身体に力が入らなくなり、地面に膝をついて転がる。

 依織は焦った。早く解毒しなければ死んでしまう。

 だが、どうやって────?

「…………」

 冬真は苦しむ依織を冷たく見下ろす。

 うららは片付けられたが、紗夜は殺せなかった。

 彼女を仕損じただけでなく、毒の攻撃まで食らうとは。
 所詮、この程度が限界だろう。

「……冬真、助け────」

「ごめんね。もうここで死んでくれる?」

 縋るように冬真に手を伸ばした依織だったが、無情にも切り捨てられた。

 同盟はここまでだ。

 目的を果たした依織がこれ以上熱心に連中を狙ってくれるとは思えないし、何より無魔法に甘んじている。

 生産性がない。価値もない。
 むしろ、足でまといとなることは確定である。