「ねぇ、そもそも何でここに俺がいるって分かったの?」

 至はあくまで余裕な態度を崩さないまま問うた。

 アリスは影から視線を戻す。ひとまず知らないフリをしておく。

「あたしは所謂、情報屋ってやつで、大方の魔術師について把握してんねん」

 至は、はたと閃く。

 それなら彼女は「蓮」のことも知っているかもしれない。

 しかし、その期待を口や態度には一切出さなかった。

「ふーん。その中で、何で俺を選んだの? 何処まで知ってる?」

「あんたが最凶(、、)と謳われる如月冬真を実質倒したって聞いた。あんたを頼った理由は明快や。単純に強いから。触れるだけで相手を眠らせることが出来るんやろ?」

 どうやら、魔法の全容までは把握していないらしい。

 そう察した至は扉に置いていた腕を下ろして組んだ。

「共闘ねぇ……」

「そう、そんで仲間になろう」

 アリスは最後の一押しとでも言わんばかりに言った。

「…………」

 最初こそか弱い雰囲気を醸していた割に、主張も態度もしっかりとしている。怯えた感じではない。

 ふ、と至は微笑んだ。

 アリスは、彼が自分の提案を受け入れてくれたのだと思った。ほっと息をつく。

「悪いけど……俺、特定の誰かに肩入れしたりしないの。ニュートラルってわけ。だから共闘も仲間も興味ないし必要ない」

 思わぬ言葉にアリスは瞠目した。

 取り付く島もないような拒絶に、咄嗟に声も出なかった。

「それに、そもそも君からは嘘をついてる香りがする。……だから、おやすみ」

 とん、と至はアリスの額に触れる。

 眠りに落ちて崩れ落ちる彼女を抱え振り向くと、姿を現した小春と目が合った。

 驚きを顕にする彼女に、肩を竦めて笑う。

「代償で右目を失ったからかな。代わりに鼻が利くんだよね、俺。だから俺に嘘は通用しないんだよ」

 部屋の隅にアリスを寝かせておく。

 小春はブランケットを掛けてやった。

「嘘って……?」

 アリスがどのような嘘をついているのだろう。

「さぁ、分かんない。でも、何ていうかな。野心みたいなものが隠しきれてないんだよね、彼女。星ヶ丘の彼と同じようなにおいがする。出来れば、このまま起こさずにいたいかな」

 星ヶ丘の彼、すなわち冬真と同類のにおいがするのだ。勘でしかないが。

 至はさらに続ける。

「情報源としては役立つかもしれないけど、俺に関する情報も完璧じゃなかった。情報屋ってのは確かでも、精度は今一つ。あんまり期待出来ない」

 彼はあくびをしつつ、ソファーに腰を下ろした。

 冬真とアリス。二人を眠らせた状態では、三日くらい徹夜した気分だった。

 睡魔も然ることながら、身体も重くだるい。不意にぼんやりしてしまう。

 ふと小春に目をやる。

「君が良ければ、引き続き蓮くんを捜したい」

 会いに行きたいわけではない。こちらが先に見つけたい(、、、、、)

 そうすれば、小春の事情を正直に明かしてもいいものか、中立的に判断出来るような気がする。

 小春は蓮という人物が誰なのか分からなかったが、至によれば、もともと仲間であり親しい仲であった誰からしい。

 こく、と頷いた。断る理由もなく、蓮捜しを承諾する。

 至はガラス片を拾い上げると、縁を掌に滑らせた。

 じわ、と浮かんだ赤い筋から血が滴り落ちる。

 ……見た目以上にしんどいようだ。

 至は奥歯を噛み締め痛みに堪える。

「大丈夫……?」

「……へーき」