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 大雅は何度も冬真に掴みかかっては、物理攻撃を仕掛けた。

 律が植え付けた殺意により、完全に我を見失っていた。

 冬真は何とか絶対服従の術をかけようと試みるが、五秒間の隙すら生まれない。

 攻撃を躱しながら、どう切り抜けるかを考えていた。

 殺したいのは山々だが、それには魔法の使用が大前提だ。単に物理攻撃返しで殺しても意味がない。それではテレパシー魔法が無駄になってしまう。

 そして、冬真が魔法を使って殺すとしたら、操作して────ということになるが、自殺では駄目だ。

 ならば、事故しかない。
 対象を操って意図的に事故に遭わせる。

 直接的な死因は魔法ではないものの、魔法がその死を招いているのだから問題はない。“魔法による殺人”だ。

 そのためには、まずは傀儡にするか絶対服従させるかしなければならないのだが、厄介なものだった。

 冬真が同時に傀儡に出来るのは一人だけである。

 大雅を始末するなら、律の傀儡を一度解除し、大雅を傀儡にして事故に遭わせるのが手っ取り早い。

 しかし今はそうもいかなかった。

 普段なら味方であるはずの律と、今は敵対している。律の傀儡を解けば、自分に牙を剥くはずだ。

 律も大雅も別に冬真の魔法を奪おうという意思はないため、殺す手段にはこだわらないだろう。

 “魔法を奪いたい”という意思があるなら、どちらの魔法も戦闘向きではないために余裕があったが、そうでないからかえって都合が悪い。

(一旦、気絶させるしかないか……)

 殺さない程度に痛めつけて。

 冬真は旧校舎内に落ちていた鉄パイプを拾い上げる。迫ってくる大雅に向け思い切り振った。

 バキッ、と痛々しい音が響く。恐らく大雅の肋骨が折れた。

「く……っ」

 大雅は痛みに悶絶し、よろめいた。彼の勢いが削がれる。

 その隙に冬真は大雅を蹴飛ばした。彼は瓦礫の山に突っ込む。

 ガシャン! と派手な音が反響した。
 負傷により動きは止められたが、意識はまだある。

「まだ続けるの? それじゃ勝てないのは明白でしょ。僕を殺すなんてどの口が言ってるんだか……。 あはは、やれるもんならやってみなよ」

 冬真は律越しに挑発し、逆上した大雅が再び迫ってくるのを狙った。感情的になった相手は隙だらけだ。

「…………」

 しかし、予想に反して沈黙が落ちる。

 大雅は蹲った姿勢のまま顔を上げなかった。
 わずかに肩を震わせている。

 その様子を認めた冬真は訝しむように眉を寄せた。

(何だ……?)

 粉塵が消える。視界が晴れる。

 大雅は、先ほど捨てさせたはずの鏡の欠片を手にしていた────。

「!」

 冬真は身を強張らせる。
 まずい。あれで自殺でもされようものなら。