もったいつけるようにステッキを軽く振った瞬間、和泉のスマホが石と化した。
「……!!」
一見おもちゃにも見えたけれど、まさしく本物だ。
瑠奈こそが石化魔法を使う魔術師で、和泉を殺した犯人だったのだ。
防衛本能は正しかった。違和感も正しかった。
どうして考えなかったのだろう。
瑠奈が魔術師である、という可能性を。
「ちょっと来てくれる? ま、嫌とは言わせないけどね」
瑠奈は石化したスマホを放り捨て、ステッキを小春に向けた。
鋭い刃の切っ先を向けられているも同然で、小春はおののきながら瑠奈に従った。そうせざるを得ない。
瑠奈は河川敷に下りると、橋の下で立ち止まった。
周囲にひとけはないけれど、ここならさらに人目を忍ぶことができる。
「聞きたいことがあるんだけど」
瑠奈は油断なくステッキを構えたまま、さっそく切り出した。
恐怖と緊張で心臓が早鐘を打つ。
「和泉くんへのあのメッセージって、どういうつもりで送ってたの?」
「……どういうって、心配で」
「そうじゃなくて」
瑠奈は一歩詰めた。
「小春ちゃん、魔術師なの?」
どくん、と強く拍動する。
核心に迫る問いかけに、とっさに反応できなかった。
「ま、魔術師ってなに……?」
反射的に聞き返し、誤魔化そうとした。
冷静さを失った頭はうまく回らなかったものの、口先が勝手に言葉を紡いでいく。
「魔法とか、瑠奈がなに言ってるか全然分かんないよ! さっきの、スマホが石になったのも……どういうことなの?」
少しの間、吟味するように黙り込んでいた瑠奈は、すぐにいつも通りの笑顔を浮かべた。
「……そっかぁ、知らないか。ううん、もしかしたら和泉くんと魔術師同士で繋がってるのかなって思っただけ。知らないならいいの」
見当違いな瑠奈の推測と、あっさり小春の言葉を信用した点から思い至った。
瑠奈は確信を持っているわけじゃない。
それはこの状況において、唯一の救いだった。
けれど、手放しには喜べない。
どのみち小春の嘘がバレたら終わりだ。小春には何の魔法もない。
それでも、そう正直に主張したところで信じてもらえるはずがないし、自分が唯一の生き残りになるためには、結局ほかの魔術師を殺さなければならない。
異能を奪えないとしても、見逃してもらえるとは思えなかった。
このまましらを切り通せば、この状況を切り抜けられるだろうか。
そんなことを思った折、瑠奈は「でも」といっそう笑みを深めた。
「小春ちゃんがちがっても、蓮くんはどうかなぁ?」



