そのとき、昼休みの喧騒とは明らかに異なるざわめきが下の方から聞こえてきた。
「何か、騒がしくない?」
小春は立ち上がり柵から身を乗り出す。蓮もそれに倣い、騒ぎの出処を探した。
屋上からはちょうど中庭を見下ろせる。
中央に植えられている大きな広葉樹の周囲に人だかりが出来ていた。
木の葉はほとんど落ちていたが、ここからだと騒がしさの原因が分からなかった。
「何だ……?」
中庭と言えば、昨日和泉の手があったこともあり、あまり良い予感はしない。
もしや、あの手が発見されたのだろうか。
「行こう」
小春は駆け出した。蓮も後を追う。
中庭まで来ると、人だかりをかき分け、その渦中を目の当たりにした。
「……!」
小春は息をのんだ。蓮も瞠目する。
太い木の根元に、大きな石像が置かれていた。
男子生徒を模したそれは等身大で、足を伸ばして座った姿勢を取っている。
左手首から先と頭部がなかった。
顔が分からないが、和泉であろうことは分かる……。
恐れおののき、腰が抜けたのだろうか。
そう思わせるほどの切迫感が、石像から滲み出ている。
「和泉くんだよね……」
「……だな」
石化が解けるのかどうかは不明だが、解けたとしても、この状態ではもう助からない。
小春は低木の方を振り返った。昨日あったはずの左手は消えていた。
犯人が持ち去ったのだろうか。
「危ない!!」
誰かが叫んだのと、蓮に腕を引かれたのは同時だった。
戸惑っているうちに目の前を何かが、上から下へ通り過ぎていった。
ドッ、という鈍く重い音とともにその何かが地面に叩き付けられる。
────石化した和泉の頭部だった。
「ひ……っ」
小春は息をのんだ。周囲からも悲鳴が上がる。
無機質な和泉の目と、目が合った。小春は思わず後ずさる。
昨日の左手と同様に、芝生であったために割れることはなかったが、お陰で恐怖は倍増であった。
「大丈夫か」
蓮の焦ったように問いかけに頷く。
怒気を滲ませつつ蓮は上を見上げた。小春も仰ぐ。
まさか石像が空から降ってくることはあるまい。誰かが意図的に落としたのだ。
人に当てる意思があったのかも、小春たちを狙ったのかも不明だが。