「…………」
影は黙り込んだまま何も言わなかった。
取りなすように、至が落ちた沈黙を破る。
「小春ちゃん、心配しないで。姿を現しても大丈夫なんじゃないかな」
労るように優しく語りかけた。
「蓮くんが言うには、ルールに違反さえしてなければ狐くんには狙われない。ひとまずは安心して。彼らに事の顛末を話そう?」
ややあって、空間が一瞬歪んだ。
半球形の結界の頂点に向かって、幕が上がるようにして光学迷彩が解かれた。
そこには不安気な面持ちの小春が佇んでいる。
「小春……っ!」
目が合った瞬間、身体が勝手に動いた。
気づけば強く抱きすくめていた。
「……!」
「よかった、やっと会えた……。俺、おまえが消えてからずっと、気が気じゃなくて────」
「あ、あの……」
困惑したように遮った小春は、やんわりと押し返す。
「誰、ですか? あなたは……」
その硬い声色を聞き、蓮は頭を鈍器で殴られたような衝撃を受けた。
「え……?」
聞き返した声は掠れて溶けた。
指先が急速に温度を失っていく。
言葉の、質問の意味が分からない。
脳が理解することを拒んでいる。
「な、なに言ってんだよ……。そんな冗談、マジで笑えねぇんだけど……」
小春はただ困ったような顔で黙り込んでいたものの、ややあって助けを求めるように至に視線を移した。
その心情を悟り、ひとまずふたりを剥がした至は彼女を背に立つ。
「改めてみんなに説明するよ。彼女の身に起きたこと、俺が知ってることはすべて話す。……小春ちゃん、きみにもね」



