「こうなったら、かくなる上は噂の八雲至やな。如月を戦闘不能にした張本人────今の最恐(、、)は、間違いなく八雲や」

 かくしてアリスは、蓮たちとは決別することにした。至に取り入れば安泰だろう。

 このまま行方を晦ましてしまえば、くだらない仲間ごっこに付き合う必要もなくなる。

 大雅とのテレパシーを切断すると、弾むような足取りで歩き去って行った。



*



 アリスはそのうち帰ってくるだろう。わざわざ深追いや追求をする必要はない。

 そう判断した面々は廃トンネルに留まった。

「なぁ、陽斗の遺体見たんだよな。どんな感じだった?」

 蓮はうららに遺体の状態を尋ねる。

「火炎での火傷もあったし、脚は撃ち抜かれて風穴だらけでしたわ……。銃弾でなく魔法での傷なら、水や石ではないかしら」

「光かも……」

 補足した紗夜の言葉を受け、奏汰は「光線銃みたいな感じか」と呟く。

 “撃ち抜く”ことが出来るのは、この辺りの魔法だろう。

「恐らく水じゃないかと思いますわ」

「どうして?」

「落雷を受けたようでしたから。水のせいで、余計にダメージが大きくなったのではないかしら」

 そこまでの話を聞き、蓮はずっと抱えていた疑問をぶつけてみることにした。

「同じ魔法が同時期に存在することはねぇのか?」

 紗夜とうららは顔を見合わせ、首を左右に振った。

「わたくしたちが知る限りでは見たことがありませんわ」

「そういう状況がありうるとしたらコピー魔法でしょ……。でも、今回はその持ち主が殺られてる。つまり、考えられるのは────やっぱり祈祷師」

 紗夜のその推測は尤もらしい気がした。やはり彼が陽斗を殺したと考えるのが妥当だろう。

 狙われる理由がよく分からないが、自分たちも警戒するに越したことはない。

「如月さんもそう言ってましたわ。甲斐さんを殺害したのは祈祷師だ、と……」

 しかしそれは、大雅を縛り付けるためのはったりだったかもしれない。

 路上で最初に陽斗を発見したとき、冬真は陽斗のことを知らないようだった。それなのに、彼に手を下したのが誰かを把握していたというのは不自然だ。

 ────祈祷師は、いったい何者なのだろう。

 際限なく多彩な魔法を操り、神出鬼没……目的も不明。

 うららは思い出す。確か“天界”の住人で、リーダーという存在がいるという話だった。人数は不明だが仲間がいる、と。

「天界ねぇ……」

「何か、何となく胡散臭いっていうか、オカルト臭が凄いんだけど」

 怪訝そうな表情の蓮と、苦笑する奏汰。オカルト好きの紗夜以外は、一様に微妙なリアクションをした。

 実際、何だか“バトルロワイヤル”というゲームと“天界”などという異様な響きはなかなか結び付かない。

「まぁ……魔法を使って戦う高校生たち、なんて俺たちの存在も充分現実離れしてるし、厨二病って言われても致し方ない気はするね」

 奏汰は苦く笑ったまま言う。それはそうだ。

 いずれにせよ、祈祷師という異質な存在も、このバトルロワイヤルに深く関わっている。彼に会えば今抱えている大半の疑問は解決しそうだ。

 “捜す”という選択肢もあるだろうか。いや、天界とやらが何処にあるのか分からないが、天界にいるなら見つかる可能性は低い。そもそも今遭遇したら、勝てる気がしない。