ウィザードゲーム〜異能バトルロワイヤル〜


 混乱を極める蓮を一瞥(いちべつ)し、スマホをしまった雪乃は顔を上げる────。

「あたしはな“時間逆行”の魔術師なんだよ」

 毅然として告げた。

「最大で2分間、時間を戻せる。このときは、水無瀬さんが殺されたのを見て時間を巻き戻した。この変な男が現れる直前に……」

 はっと見張った蓮の瞳が揺れる。

 まさか、彼女が魔術師だったとは。
 それだけでなく、小春が失踪(しっそう)するきっかけとなった出来事に深く関わっていたなんて。

 ────雪乃のお陰で、小春が祈祷師に殺されたという事実は消えてなくなった。

 けれど、それでどうなったのだろう。
 どうして、そのまま姿を(くら)ます羽目になったのだろう。

「それで……?」

「巻き戻したあと、水無瀬さんを連れてあの場から逃げた。この動画を見せて、これから起こることを教えた。……水無瀬さんは自分が狙われたことを知って、真っ先におまえを心配してた」

「俺、を?」

 雪乃の表情が硬くなる。

『蓮の近くにいたら、蓮まで危なくなるのかな』

 まさに自分が殺されようとしていた────実際、殺された────というのに、まず蓮の身の安全を案じていた。

 それから、彼女はひとりで帰路についたようだった。

「……あたしが知ってるのはここまで」

 その後の小春の動向については、雪乃の知るところではない。

「踏切では救えたけど、あれ以降にまたあの変な男に狙われたのかもしんない。……でも、巻き戻すにしろ、それならもう手遅れだ」

 蓮は気圧(けお)されたようではあったものの、納得したように数度頷く。

「なるほどな……難しい。分かったような、分かんねぇような」

 とにもかくにも雪乃の異能のお陰で、小春も蓮も“祈祷師と遭遇する”という事態を回避できたのだ。

 電車が通り過ぎる前に雪乃が小春を連れて逃げたから、蓮の目には彼女が忽然(こつぜん)と消えたように映った。

 祈祷師はそのあと踏切に現れたものの、狙いの小春がいなかったため、蓮とも接触せずに退散した。

 そういうことだろうと理解しておく。

「おまえも、本来は瞬間移動先で呪術師とやらに殺されてたかもな。あたしはあくまで水無瀬さんを助けたつもりだけど、ついでにおまえの命も救ってたかも」

「……かもな。ありがとな、小春を救ってくれて」

 動画を見た限り、その可能性も大いにありそうなものだった。
 もはや確かめようのない、仮定の話だけれど。

「でも、何でおまえが……? 偶然じゃないんだろ?」

「当然だろ。“守るため”だって。……知ってると思うけど、あたしはいじめられてる。みんながみんな、関わり合いになりたくないって無視する中で、水無瀬さんだけはあたしに声かけてくれた」

 雪乃の(かげ)った瞳が、わずかに和らいだ。

『大丈夫……?』

 孤独という暗闇のどん底に沈んでいた自分に、迷わず手を差し伸べてくれた小春。

 ほんの一瞬で、惨めさも自己嫌悪も吹き飛ばしてくれた。

 自分の存在を無条件で肯定してくれたようだった。

「たったひとことでも……。ちゃんとあたしの目を見てくれた。それが嬉しかった。それだけで、救われた」