姿の見えないふたりの人間がこの場にいる。まさしく透明人間だ。
「あー、バレちゃったみたい」
大雅ははっとする。
その飄々とした暢気な声色は、間違いなく至のものだった。
瞬くと、一瞬にして祈祷師が影の真正面に現れる。
それを見た蓮はとっさに「奏汰!」と呼んだ。
言わんとすることを察し、腕をもたげた彼は拳を握る。
「うあ……っ、しまった。やば」
「おお、硬直魔法? ナイスアシスト」
祈祷師の顔から余裕の笑みが消えると、したりげな至の声がした。
後手に回るしかなかったのに、主導権が移ったのが分かる。
空間が歪んだかと思うと、姿を現した至はすぐさま祈祷師の額に触れる。
「!」
奏汰が硬直を解けば、祈祷師の身体はその場に崩れ落ちた。────眠りに落ちたのだ。
至は息をつく。
ひとまず4人も気を抜けた。
「……どうする? 捕らえて洗いざらい吐かせるか?」
大雅が誰にともなく尋ねたとき、突如として眩い光がひらめいた。
思わず目を瞑ると、倒れていたはずの祈祷師が消えていた。
恐らく天界とやらに強制帰還したのだろう。
「ありがとな、助かった。もしかして、おまえが……」
至に向き直った蓮が告げると、大雅が頷く。
「ああ。こいつが至だよ、八雲至。なあ?」
「誰かと思えば屋上にいたきみかぁ。無事で何よりだよ」
彼は続いてそれぞれに身体を向ける。
「はじめまして。彼がいま言った通り、俺が八雲至ですー」
にこやかに名乗ると、暢気にもあくびをする。
右目が前髪で覆われているものの、穏やかな人となりのお陰で威圧感も陰鬱さも感じられない。
「改めてありがとな。いまのも、冬真のことも」
「いーって、気にしないで」
大雅の礼をなんてことないように流した至を、蓮はじっと真剣に見据えた。
「なあ、おまえに聞きたいことがある」
「ふあぁ……。その前に、きみたちは誰? 何であいつに狙われてたの?」
「ああ、悪ぃ……。俺は向井蓮で、こいつは────」
「えっ、蓮……? きみが? 向井蓮くん?」
「そうだけど?」
なぜか反応を示した至に首を傾げてしまう。
すると、驚いたように目を見張った彼は感激して顔を綻ばせる。
「やっと会えた、蓮くん。よかった!」
ますます意味が分からず、それぞれ困惑してしまう。
「ああ、ごめんごめん。ちょっとわけあって、きみのこと一方的に知ってたんだ」
「……え?」
そう言うと、ふともうひとつの影を振り返った。
影は怯んだように一歩あとずさる。
「こっちは誰なんだ? 何でずっと隠れてる?」
「それにもちょっとわけあって……。いまは姿を見せられない。それでとりあえずは納得して」
影ではなく至が答えた。
そのシルエットだけを見れば小柄な女子に見えるけれど、いったいどんな“わけ”があるというのだろう。



