「……確かめられねぇ」
「あーもう!」
蓮は乱暴に髪をかき混ぜた。
無力感や喪失感から募る苛立ちが爆発する。
「こうなったら、いっそ冬真たちのとこ乗り込もうぜ。そこに小春がいたら、取り返して冬真を殺す。敵が減るんだから、それでいいだろ」
「冷静になれよ。それで小春が喜ぶと思うか?」
大雅は何も、積極的に“殺し”を肯定していきたいわけではなかった。
「……小春は優しすぎんだよ。誰も殺さず、誰も傷つけなかった結果がこれだろ。それじゃ何も守れねぇんだよ」
悔しそうに眉を寄せ、蓮は拳を握り締めた。
いつだってそうだ。
世の中は残酷で、真っ当に生きている優しい善人ばかりが損をする。
「小春のことも守れなかった。“いままで通り”じゃだめなんだよ。取り返すこともできねぇ」
彼女を信じて、その選択を支持してきた。
けれど、誰のことも傷つけないというのは甘すぎた。そこにつけ込まれたのだ。
それなら、残忍になるしかない。
邪魔をするなら誰であろうと殺せばいい。
それほどの気概を見せなければ、冷酷な現実に易々と牙を剥かれてしまう。
……それが、よく分かった。
『────ねぇ、大雅。ちょっと僕の話を聞いてくれないか』
突如として、頭の中に忌々しい冬真の声が響いてきた。
無視してやりたかったが、無下にすればうららの安全が脅かされかねない。
嫌々ながら、顳顬に人差し指を添える。
(……何だよ?)
『きみたちに提案がある。僕らと取り引きしよう』
“取り引き”なんて、どう考えても悪い予感しかしない。
もったいつけるように一拍置いた冬真が、本題へと切り込んだ。
『百合園うららと大雅、きみたちを交換したい』
◇
「どうして、あの場でムカイを殺さなかったんだい?」
呪術師は祈祷師に尋ねる。
踏切で相見えたにも関わらず、彼は蓮を殺すことなく天界へと帰還した。
「ボクの狙いはミナセコハルだったからねー。そのカノジョがいなくなっちゃったから退散しただけ」
昨日、祈祷師は蓮と小春のいる踏切へ向かった。
確かにその姿はあったはずだった。
────しかし、着いた頃には彼女だけがいなくなっていた。
突然ひとりになって戸惑う蓮を見ながら、同じく困惑したものだ。
祈祷師からの襲撃を、まるで予知していたかのように隠れたようだった。
「じゃあいまからでもムカイを殺してきたらどうだい? あたしや霊媒師もほかの連中を殺りにいくから」
「……いや、待て」
制したのは陰陽師だった。
呪術師は意外そうに彼を見やる。
「もはやその必要はなくなった」
「……あぁー、そうだね。コハルが消えたお陰で、あいつらがゲームに支障をきたすこともなくなったはず」
霊媒師が補足するように言った。
幸か不幸か、小春の仲間たちは彼女がいなくなったお陰で救われたとも言える。
「あれれ、霊ちゃん。機嫌直ったの?」
祈祷師はからかうように首を傾げた。
霊媒師はばつが悪そうに、昨日傷を負った肩に触れる。いまはすっかり癒えているが。
「うっさいなぁ。……あのチビ、どうせ勝てないくせに生意気なのよ」



