「い……っ、ぁ」
何が起こったのか、自分自身でも分からなかった。
突如として腰のあたりに激痛が走ったかと思えば、地面へ向かって急速に落下していく。
どさ、と叩きつけられるように倒れ込むと、次いで何かが降ってきた。
痛い。熱い。苦しい。それだけが頭の中を駆け巡る。
(何が……起きたの?)
どくどくと腹部のあたりから血があふれていくのが分かった。
あまりの激痛に意識が朦朧とする。
せり上がってきた血が口からあふれた。
力が入らない中、小春は必死で顔を動かした。
(え……?)
腰から下が、ない。
身体がふたつに分断され、下半身が転がっている。
切断面から内臓がこぼれ、間欠泉のように血が噴き出ていた。
「焚きつけた主犯のキミには楽な死に方させないよー。ボクたち運営側は“ルール違反者”に制裁を加えなきゃね」
祈祷師の声がぼんやりと聞こえる。
(ルール、違反……?)
血の絡んだ浅い呼吸を繰り返した。
考える余裕もない。
こんなところで死ぬわけにいかない。
死にたくない。死にたくない……!
自分の状態を把握した途端、切に願わずにはいられなくなった。
けれど、そう思う反面、この苦痛から早く解放して欲しいとも思ってしまう。
「う、ぅう……っ!」
耐えがたい痛みと苦しみに叫び出したいほどなのに、そんな気力も体力ももはや残っていなかった。
早く意識を失ってしまいたい。そうすれば、きっと楽になる。
けれど、そうすればもう二度と目覚められないだろう……。
「ふふふ、いっそのこと殺して欲しいでしょー。でも、ボクはそんな優しいことしないよ。勝手に命尽きるまで見守ってるね」
祈祷師は倒れた小春の前に屈み、自身の膝に頬杖をついた。
小春の呼吸が鈍っていく。心音の間隔が広くなっていく。
目を閉じれば、蓮や仲間たちの姿が蘇った。
つと涙が伝い落ち、血溜まりに溶ける。
なんて情けないのだろう。なんて無責任なのだろう。
誰のことも、自分自身でさえ、守れなかった。
「ごめ……ね……」
がくりと身体から力が抜ける。
閉じた瞳が開くことはもうなかった。
小春の死を確かめた祈祷師は、満足気に口角を持ち上げる。
「あーあ、死んじゃった。案外あっけなかったなぁ」
そう呟いて亡骸に手をかざすと、あたりに眩い閃光がほとばしった。
◇
瞬くと目の前の風景が一転した。
放課後の学校だ。
見慣れた校舎内だが、人影はない。
「くそ……! こんなとこにいる場合じゃねぇんだよ」
勢い込んで廊下を駆け出した蓮だったが、すぐに足を止める羽目になった。
少し先にひとりの女が現れたからだ。
片方の口端を持ち上げ、高圧的な笑みを浮かべている。
「あんたがあたしのお相手ってわけね」



