「あまりにも突然のことで、皆も驚いていると思うが……黙祷を捧げよう」

 話している担任自身が動揺を隠せない様子だった。教室内にいる誰もがそうだ。平然としていられるわけがなかった。

「────黙祷」

 小春はそっと目を閉じた。

 慧は復讐を望んでいるだろうか。報復として瑠奈を殺さないことを怒っているだろうか。

(望月くん、ごめんなさい)

 仲間として守り切れなかったこと、犠牲にしてしまったこと────以前、蓮ともども助けられたのに、何も返せなかったこと。小春は心の内で謝った。

 また、最初は不承不承だったかもしれないが、最期まで意や行動をともにしてくれたことには感謝しかない。

 ふ、と目を開ける。固く決意する。

 もう二度と、誰かをこんな結末にはさせない。



 ────昼休みになると、小春たちはいつものように屋上へ出た。

 蓮は神妙な表情で、慧が横たわっていた位置を見つめる。

 血が染みているかもしれないが、黒ずんだアスファルトと同化して分からない。

 ……あのとき、閃光とともに慧の遺体は消えた(、、、)

 一瞬の出来事だったが、人為的ではない何らかの力が働き、消されてしまったのだと思われる。

 何が起きたのかを説明することは、実際目にしていた蓮たちにも難しい。ただ、消えたとしか言いようがなかった。

 しかし、担任も警察も慧の死を知っていた。あの日、彼の遺体を目にしたのは自分たちだけで、そのまま消えてしまったというのに。遺体が再び現れたということだろうか。

 いずれにせよ、そんなことをするのは、恐らく運営側しかいないだろう。

 全員が困惑する中、あのときもその結論に落ち着いた。

 もしかしたら、和泉も最終的にはああして消されてしまったのかもしれない。



『皆、聞いてくれ』

 唐突に、各々の脳内に大雅の声が響いてきた。

『冬真が、右手を封じれば琴音の魔法は使えないってことに気付いた』

 琴音は険しい表情になった。高架下で勘づかれたのだ。

 小春たちは彼女を窺う。そんな制約もあったとは初耳だが、否定しないということは事実なのだろう。

『昨日、あいつは瑠奈に琴音の右手を石化するように言ってた。だから一応、俺が律を利用してその記憶を消しておいた。……けど、記憶操作は完璧じゃねぇから、何かの拍子に思い出しちまうかも』

 小春は大雅自身のことを思い出した。

 律に記憶を改竄され、冬真の命令で琴音を狙って動いていたとき、小春と話す中で不意に記憶を取り戻していた。

 何がきっかけとなったのかは分からないが、ああいうことが起こりうるというわけだ。

『気を付けてくれ』

「ええ、分かった。ありがとう」

 琴音は顳顬に人差し指を添え、大雅に言った。

 そのままやり取りが終わるかに思われたが、小春は咄嗟に大雅の名を呼んだ。