「私はちょっと……」
人前で歌を歌うのは苦手だ。
すごい音痴なわけではないと思っているけれど、自分の歌声が好きじゃない。
合唱コンクールもできるならばやりたくないくらい。
「なら俺も」
「いや、神代くんは行きなよ。私は大丈夫だから」
神代くんは私と一緒に帰ると言いたげだけれど、本当は行きたそうな顔をしている。
守ってくれると言っていたけれど、わかっているのなら私自身が気をつければいい話だ。
信号を守って、周りをよく見ていればいい。
「本当に大丈夫?」
「大丈夫大丈夫。そんなに心配しないで」
「本当、心配性だな、颯馬は」
神代くんは、鎌田くんにもそんなことを言われていた。
本当に心配性すぎる。
私もそんなに子どもじゃないんだから。
これじゃまるで子離れできていないお母さんのようだ。
「じゃあまたね、神代くん」
まだ不安そうな神代くんを置いて私は教室を出た。



