あれ、視界が悪い。
なんだろう、全部ぼやけて見える。
「あかり、全部食べ終わった?」
既におでんを食べ終えたひかるがわたしの方を見て、目を丸くしたのが辛うじて見て取れた。
「…ふふっ、しょっぱいでしょ。とりあえず家帰って顔洗う?」
口に入ったそれは確かにしょっぱくて、
自分が泣いていることに、初めて気がついた。
「…死ぬのは、?」
「分かってるって。でも、顔洗うのが先ね」
ひかるは、1度も否定しなかった。
ただ寛大な心でわたしの全てを受け入れて、やりたいことをしようと言ってくれる。
「家帰って顔洗って、明日はピザ。明後日は胃を休めて、明明後日はラーメン。来週は映画で…。あれ、予定がいっぱいだね」
空になった2人分のおでんのカップとライターを持って立ち上がったひかるは、優しく私に手を伸ばした。
「…どうしよう」
「どうもしないよ。全部叶えてからでも悪くないでしょう?」
わたしも手を伸ばし、ひかるの骨ばった指と指を絡める。
ぽちゃんと、何かが川に落ちる音がした。



