「藤澤さぁ…」
2週間ほどが経った日、フェンスの側にいた由夏に圭吾が話しかけてきた。
「え?」
「もしかして調子悪かったりする?」

由夏の心臓と眉の端にピリッと小さな刺激が跳ねた。

「なんで?ってゆーか、突然何?」
「いや、なんとなく。」

連日横を通っているとはいえ、“なんとなく”で ろくに見学していたわけでもないクラスメイトに調子の悪さを言い当てられるのはたまらなく不愉快だった。
この2週間で由夏のタイムは下がり始めていた。

「高橋に何がわかるの?関係ないじゃん。なんとなくでムカつくこと言わないでよ。ちゃんと真面目にやってるのにそんなこと言われたら腹立つ。」
ムッとした表情を隠しきれない由夏に、圭吾は一瞬だけ考えるように沈黙した。
「それもそうだよな、ごめん。テキトー。」
本当に“テキトー”な軽い口調であっさりと謝罪した。
「まあ、もし調子悪かったとしてもさ、もっと力抜いてもいいんじゃね?今まで頑張ってきたんだろ?」
“今まで頑張ってきた”という言葉に由夏は腹立たしさを超えて、胸が苦しくなった。


(何も知らないくせに)


声に出ていたかもしれない。少なくとも顔には出ていた。
「おつかれ。」
と言って、圭吾は校門の方向に歩き出した。
「…おつかれ」
由夏も言いたくなさげに言った。

そんな見た目でそんなノリで、テキトーにやって良い成績取れちゃうやつにわかるわけない。
努力して努力して努力して
努力してるのに、どこが悪いのかわからない調子の悪さに押しつぶされそうな私の気持ちなんか。
潮風でベタつく髪がいつもより重たく感じた。