当然二人はお咎めなしというわけにはいかなかったが、普段の授業態度が真面目なことと圭吾はやはり成績が良い点で、由夏は部活動を真面目に行なっていることで親を巻き込むような厳しい処罰は免れた。受験生ということもあり、反省文の提出のみで許される事となった。もちろん二人は揃って森本先生をはじめ、今回のことに関わりのあった教諭への謝罪をきちんと行なった。

それからひと月程度は「高橋と藤澤は付き合っている」だとか「愛の逃避行」「高橋は見た目通り遊んでる」などと生徒の間で噂になっていたが、すぐに夏休みに入ったこともあり噂は自然に消滅していた。
ただ、由夏と圭吾の関係は少しだけ変わっていた。

「おつかれ。」
「おつかれ。」
圭吾の帰る時間に交わす挨拶は相変わらずだ。
「藤澤、最近調子いいんだろ?」
「うんまあ、おかげさまで。」
由夏が以前には考えられなかったようなやわらかい表情で答える。
「じゃあちょっと見学していっていい?」
「無理!帰るんでしょ?おつかれ!」
由夏は焦ったような早口でフェンスの向こうの圭吾を帰らせようとする。
「なんだよ、あれ以来一回も走ってるとこ見れてねえんだけど。」
「だって、見られてるって思ったらさすがに照れる…。」
由夏の頬がほんの少し赤くなる。
「集中してたら気になんないって。」
「気になるって。だいたい高橋が見てたらまた変な噂がたつでしょー!」
結局圭吾は見学せずに帰っていった。
あれから圭吾が立ち止まって由夏の走りを見ることはなくなった。
由夏の部活は夏休みを半分残して終わりを迎えた。