「高橋はちゃんと真面目に勉強して、結果出してるよね。模試も英語の発音もすごいもん。」
一度本音を言ってしまえば、素直にすごいと言えた。
「だから金髪にしてても、こうやって体育サボっても、…本当はダメだろうけど…認められるんだよね。」
「………」
「なんていうか…自由?自由の使い方が上手いって感じで羨ましい。」
「………」
圭吾は考えるように黙っていた。
「一応言っとくけど、これ別に嫌味でもなんでもないから。」
圭吾の沈黙が少し気まずさを醸し出している気がして、由夏は圭吾の方を向いて付け足した。

「“ 偶々、帰りに通りがかるようになった”」
口を開いたかと思ったら、圭吾は由夏の言葉の一部分を切り取るように復唱した。
「俺って自由に見えるんだ?」
圭吾も由夏の方を見た。その表情は不思議そうにも困ったようにも見える怪訝な顔だった。
「…うん…自由…に見える。自由をうまくコントロールしてる、みたいな。」
「ふーん、そうなんだ。」

「いろいろ勘違いしてるよ、藤澤は。」
圭吾が小さく呟いた。
「え?」
また見た目で判断してしまっただろうか、と由夏は考えた。

「でも」
圭吾が少しはっきりした声で続けた。
「俺が自由に見えて羨ましいってことはさ、藤澤は自由に憧れてんだ?」
圭吾の質問に由夏はどうだろうと考えた。


(きっと、そう。)


「うん。なんか、そうかも。」
「じゃあさ、たまには自由になってみたらいいんだよ。なんにも気にしないで。」
圭吾が言った。
「なんにも気にしないで自由…」
由夏はぼんやりと自由を想像した。
「ダメ、全然想像つかない。」

「なんにも浮かばないなら、この学校のヤツがみんなやりたいって思ってることやろうぜ。」
圭吾が口角がニッと小さく上がった気がした。どこか悪戯っぽい表情にも見えた。

「行こう、藤澤。」


(行くってどこに?
自由でみんながやりたいこと?
なんか悪いことって予感がする…けど…
でも…)

迷ったのは1秒にも満たないような時間だった。

由夏が立ち上がると、圭吾は背中のフェンスを指差した。
「これ、乗り越えられる?」
圭吾が何をしようとしているのかわからなかったが、迷いが消えている由夏はただコクっと頷いた。