報告書X/その2


秋川の運転する車が山の中腹に佇むJAAOの研究所に到着したのは、午前10時半ちょっと前だった。

「いやあ、お二人とも、遠いところご苦労様です。さあ、こちらへどうぞ…」

40代前半の浦井という担当職員は二人を出迎えると、2階のゲストルームへ先導した。

木々に囲まれた静かな研究所は、新築してさほど年数がたっていない3階建ての建物で清潔感が漂い、ゲストルームは天井が高くて壁は無垢の板張りと、とても明るい。

暖房もちょうどいい具合に効いていて、打ち合わせ場所としてはこれ以上ない極上の環境だった。

...


「周囲は自然にあふれているし、建物もきれいなので心が洗われますな、ここに来ると」

「本当っすよ。我々の署とはえらい違いですね、ハハ…」

「まあ、そちらにおかけください」

二人はキャスター付きのウッドチェアに腰をおろした。
室内の何気に木のぬくもりがあふれ、日々の喧騒から解放された刑事たちはどこか癒され気分に浸っていた。

間もなく浦井は、テーブルにファイルでとじ込まれたA4サイズの資料を置き、二人に4冊づつ差し出した。

...


「では、さっそく今回の事案について解説をさせていただきます。ただ、予めお話しした通り、本事案は秋川刑事と津藤律子さんが自らの仮説を添付いただき、当方が検証した結果、お二人の見解とは概ね一致いたしました。従いまして、本日は最初に私から総論といくつかのポイントをお話しした後、質問をいただいてお答えするというスタイルで進めさせてもらいたいのですが、よろしいですか?」

浦井はまるでアナウンサーのような美声で、丁寧に事前説明を行った。

「はい、それでお願いします」

秋川がそう答え新田が相槌を打つと、浦井はこれ以上ないほど穏やかだった表情を幾分きりっとさせ、解説を開始した。

秋川と新田は言い合わせたように、心持ち背筋をただし、浦井の言葉を待った…。