集結の地/その1


秋川は電話越しに、新田の居ても立っていられないであろう、心のもやもやが透けて見える思いがした。

「…わかった。”上”には俺からも電話でゴリ押ししておく。明日、お前は直接、静町を所轄するN市の署へ向かってくれ。向井さんと会った後、俺もそっちに行く。N署で合流しようや」

「了解しました。向井祐二自殺の詳細は、担当課で確認しておきますよ」

「おう、頼む。おそらく、俺たちがN署を出るころには、向井さんが津藤律子に全部を打ち明けてる。手紙の件を含めてな。そこで律子には、俺たちと会うことの了解をとってくれるはずだ。話がつき次第、連絡を入れてもらうようにお願いしてる。明日中には律子に話が聞けるだろう。そうなれば、このヤマが”別部屋”行きかどうかの判断も下せるかもしれない…」

「はい…。じゃあ明日、署へ一旦出たら即、そっちに向かいます。では…」

結局、明日、秋川が律子と想定通り会うことになれば、新田も一緒にということになった。

”新田の思いがくみ取れた俺にとって、ヤツを立ち会わせるのはもはやデカの先輩である己の責務だ”

秋川は、それを今の新田との電話のやり取り中に決断した。

...


その夜、秋川は向井月枝と明日会うことになった経緯を新田に電話で伝えた。

「そうですか…。そういうことだったんですね」

新田の声はいつもよりだいぶ小さく、呟くようだった。

秋川は自分の用件を話したあと、直近の捜査状況の報告を新田から受け、彼に元気がないその原因を掌握することができた。

「…なにしろ、こっちは滝川の周辺を洗っても、事件当夜に接触した可能性がある人物は全く浮かんできません。遺族にも自殺、他殺の両線で調べているとは伝えてはいますが、こちらが最低限で告げた遺体の発見状況では、素人でも自殺は物理的に無理があると薄々感じていますよ」

そんな心情を抱える遺族と肌感覚で接している新田を思うと、秋川には彼が不憫に思えてならなかった。

...


「…ところが、他殺なら今度は犯人の侵入と犯行、そして逃走が今の把握している現場の状況から、こちらも物理的に難しい面が否めない。おまけに、手がかりも事件に関与したと思われる人間もさっぱりです。遺族のいらだちを考えると、正直めげます。そこへ持ってきて、向井祐二の叔母が、津藤律子とあの悪臭を発する白い煙がつながる可能性をほのめかしてるってことでしょう?」

「そうだ…」

「しかも、祐二が自殺する前日辺りに叔母に宛てた手紙には、具体的に律子への思いも記されていたと…。そうなれば、律子、向井祐二、そして悪臭と煙が輪になりつつあるってことですよ、それ。だって、律子の勤め先で小峰さんが結果的に死んだ、あの騒動が起こった時、悪臭と煙が出て、一番近くにいた律子がその夜失踪。その後すぐ、律子の部屋の隣に住む男が死んで、その直前には例の悪臭と煙ですよ!」

この辺りになると、新田の言いようはほとんど訴えるようだった。