閉じ子の伝説/その7




「別にその土地の”養分”として身を捧げる理由なんかは、様々考えられます。この地域はたまたま日本の真ん中で、フォッサマグナという列島を横断する火山に囲まれた大断層地帯で、地下のマグマはぐつぐつと煮えたぎってて、まあ、見えない波動とかは自然界と人間双方に何らかの影響は与えていたかもしれません」

秋川は九州の山間部出身だった。
それだけに、富士山や富士五湖、多くの山脈や火山帯を有するフォッサマグナが内包する自然の神秘、ダイナミズムの壮大さはしっくり頷けるものがあった。

「…そんな地政学的な要因と時代背景が重なり、閉じ子の伝説が風土として土地に深く根付いたにすぎません。神社やお地蔵さんなど、その地を祀る根深い風習が連綿と汲まれてきた日本ですから、全国で種々雑多な風土が存在しているはずです」

「克也さん。なら、律子さんが会いに行く相手も”それ的”なめぐり合わせを感じてるってことですね、彼女は」

「そう思ってるんじゃないですかね。僕はその彼のことはあえて深くは聞きませんでした。でも、彼女は終わったら”全部”話すと言ってくれました」

「そうですか。克也さん、大変参考になりました。貴重なお話、本当にありがとう」

「いえ。律っちゃんをよろしくお願いいたします」

克也は秋川に向かって深く一礼すると、秋川もそれに応えた。そして刑事秋川は、夕焼けが眩しい学校の裏庭を急ぎ足で後にした。

...


”これは…、別部屋モノになる。ついに2件目か…”、頭の中でそんな呟きをしながら車に入ると、秋川は携帯を手に取って新田に連絡を取ることにした。

新田はすぐに電話に出た。

「秋川さん…、お疲れです。で、どうでした?」

「ああ、収穫だったよ、先生の講義は。いいか…、お前、すぐに大河原郡静町の所轄に連絡取ってくれ。向井裕二という青年が何らかの事件とか死亡とかで該当ないか聞くんだ。例のオークションの取引相手だ、津藤律子が落札したバイクのな。俺は今から、静町に向かう」

「わかりました。すぐ連絡取って折り返しますよ」

「頼む。…それから新田、このヤマ、別部屋系の色合いが濃くなってきた」

「えー?でも、秋川さん…」

「あとで詳しい話をする。今晩、一泊する宿からでも一報は入れるが、俺の考えている通りだとすれば、警察の範疇を超えた現象が起こり得たことになるよ」

新田はさらりと聞き流してはいたが、明らかに半信半疑の様子だった。

「閉じ子か…。律子はこの地の”養分”に身を捧げる”さだめ”のレールから救われたってことなのか…。祐ちゃんこと向井祐二に…。二人が出会う10数年前に…」

ハンドルを握りながら、秋川は独り言のように声をあげて自分に問いただし、静町へと向かった。