形跡/その3


律子の部屋からの帰り、秋川は運転席の新田に静かな口調で話しかけている。

「俺は明日、岐阜に飛ぶ。お前は彼女のパソコンと携帯の方を調べてくれ。それと、鑑識の結果が出たらすぐ連絡をくれ」

「わかりました。でも、律子の母親がパソコンと携帯を預けてくれたんで、助かりましたね」

秋川は、しんみりとした表情でシートベルトを片手握りながら、こう言った。

「母親も何か、ただならぬ予感がしたんじゃないのか。携帯を置いてくなんてのは、今は探さなさいでくれってサインみたいなものもあるだろうな。単純に忘れてしまったんじゃないってことは、実の母親ならわかるさ。だが一方で、神社の書置きなんかもさりげなく残しているのは、自分の行方の見当はつけさせようって気持ちからかもな…。だから母親は警察に預けたってことはあるんじゃないか」

ハンドルを握る新田は無言でうなずいた。

「あと、バイクを譲った相手だ。あのバイクを受け取った日を境に出来事が立て続けだからな。わかったらすぐ、連絡くれ。その相手にも会ってくるつもりだ」

新田は、秋川が律子の行方に対し、妙にこだわっていることがやや引っかかっていた。
それは、秋川が律子の行動を追って掴むであろう”何か”…。
できればそれには触れたくないという、漠然とした気持ちからくるものだった。

...


もし、そのバイクの相手が何らかの”関連”があるとしたら、津藤律子の身も危険だと考えてるんですか?」

「いや、今はそこまではな…」

秋川も、自分がなぜそこまで律子の動向にこだわるのか、わからない部分もあった。

「とにかく、フリーターは他殺じゃないとしても、このタイミングで起きた不審死が、彼女と全く無関係には思えないんだ」

無理矢理、自分に言い聞かせるかのうに、新田に吐き出した。

「まあ、僕の方は、ほかの可能性も視野に動いてみますよ。フリーターがあういう性癖があったとしたら、別のトラブルで殺意につながる動機を持っていた者¥がいるかもしれませんしね」

新田はドライな性格だ。
別にこれ以上、秋川の”こだわり”には、執着しなかった。

「ああ、お前はそれでやってくれ」

秋川もさらりと流して、会話は途切れた。

時刻はちょうど、夜の9時を回ったところであった。