封印された記憶/その2



それは…、頭の奥底でほこりをかぶっていた、何か特別な記憶が目の前に飛び出してきたようだった。

どうやら、子供たちはかくれんぼの一種、ポコペンで遊んでるらしい。

...


「じゃあ、次の鬼は律子ちゃんね」

男女5人の小学生が、鬼役の律子を残し、四方へ駈けていった。
ちょうどその時、夕方の帰宅を促す役所の防災無線が流れてきた。

「よいこの皆さん、家に帰る時間です…」

おそらく午後5時だろうか。

鬼役の律子は神社の正面で目をつぶり、数を数えていた。
すると、一人の男の子が”戻って”きた。

...


「律子ちゃん、鬼は僕がかわるよ」

「えー、裕ちゃん、なんで?」

「うちのおじいちゃんが、”特別な”時間は、小さな女の子が神社の正面にいると、どこか別の世界に連れて行かれちゃうって言ってたんだ」

「えー?」

「この辺は昔から、子供の行方不明が多くて、だいたい夕方が危ないって」

祐ちゃんは話を続けた。

...


「今日おじいちゃんがさ、季節の変わり目とかで5時ちょうどには、女の子を神社の正面に一人にしないようにって。女の子は守ってやんなさいって言ってたから」

「だから、裕ちゃん、鬼を変わってくれるの?」

「うん、早く逃げて。僕が鬼になって50数えるから」

「わかった。ありがとう…」

鬼をかわってくれた律子は、急いで走り出した。

...

ここで、再び靄のようなものが、ゆっくり覆ってきた。
子供たちの声も、だんだん遠くなっていく…。

...


”あーー!”

律子は目を覚ました。
どうやら、ベッドでうたた寝をしていたようだ。

時計を確認すると、その間5分くらいだ。
一通り、今の”夢”を頭の中で思い返すと、ほどなくはっきりした。

あの記憶は、6歳頃、一時的に岐阜にある親戚の家に預かってもらった時の出来事だった。

父が海外に赴任していた時、母が急病で入院して、一人になる私の面倒を親戚に頼んだのだ。
祖父母にあたる人がいなかったので、母方の親戚だったらしい。

母の元を離れた寂しさから、その間の約3か月は、無意識に自分のなかで消し去りたい時間だったのだろう。

そして今、あの神社のことだけ、はっきりと記憶を呼び戻したことの意味がストーンと律子の中におちた。

”そういうことだったのか…”

律子は立ち上がり、着替えを済ませると、部屋を出た。
”あの”バイクにまたがって…。