封印された記憶/その1


自宅に帰った律子はぐったりとしていた。

”しかし、今日は大変な一日だった。バイク通勤初日から、まさか、あんなことが起こるなんて…”

大きくため息を漏らしながら、律子は心の中でそう呟いた。

律子の記憶は、周りが騒いでいた臭いと白い煙がスッポリ飛んではいた。
だが、どこかでそれが現実という意識の中にいた感覚も確かに有していたのだ。

今思い返しても、夢と現実がごっちゃというのが律子の正直な感触だった。

...

”やっぱり、バイクを手に入れた途端の出来事というのが、引っかかる。どうしても…”

結局はそこに戻って行った。
律子のその思いは、もう分単位で大きくなっていったのだ。

”そうだ、出品者に送った、評価の返信があるか確かめないと…”

律子は早速パソコンを開き、チェックしてみた。

しかし、出品者の向井からの返信やこちらへの評価はなかった。
何となく返事は来ない気がしていたのだが、今の律子はその理由がとても重要な気がしていた。

”なんか、気になるなあ…”

なんとなくもやもやした気分になって、律子はそのままベッドに身を放った。
仰向けになって真っ白なクロスの天井を見つめ…、しばらくすると、律子はうとうとし始めた…。

...


おぼろげな感覚、これは夢だろうか…?
目の前に靄のようなものがかかっている。

ゆっくり歩いていくと、そこは神社の境内。
なぜか、懐かしい記憶が自然に湧いてくる。

更に進むと、明らかに記憶の片隅にある風景が広がっていた。
それは遠い記憶の彼方…。
その直後、ストーンと体の中身だけが抜け落ちるような感覚に襲われた。

再び気が付くと、先ほどの靄は消え失せていた。
そして、何やら子供たちの声がこだましている。
次第にその声は、近く、だんだんとはっきりしてくる。
突然、その全景が目の前に現れた…。