帰点と起点/その9
「…私らは、御嶽さんは仏山だぞって聞かされてましたからねえ。その仏が噴火したんなら、よっぽど怒ってるんだってねえ、ほんま、昔の人はそう思っていたらしいですよ。言い伝えじゃ、昔は怒りを鎮めるのに、進んで大地の神様に身を捧げる風習なんかもあったとかねえ…」
”そう言うことか…、クソッ‼”
バターン…‼
思わず秋川は踏破寸前だった、足元のジグゾーパズルを勢いよくひっくり返した。
そしてそのまま力なく、パズルのピースが散らばったフローリングの床にへたり込んでしまった。
しばらく呆然として首をもたげ、何度も肩で息をしていると…。
床でケータイが唸っていた。
”ブルルーン、ブルルーン…”
”どっちだろうか、今度は…”
秋川は一度、大きく深呼吸をしてからケータイを手に取った。
発信元は碓井の方だった…。
...
「もしもし、秋川さん…。美津江さんの証言が取れた。石毛のご老体は彼女の目の前で、何十匹もの狐が合体したクマのような巨大狐に首を尻尾で巻かれて、例の枝に吊られたって言うんだ。気が付くと、その瞬間に狐は消えていた…。石毛老人は家の倉庫から持ち出した縄で首を吊っていたんだ。…彼女、だいぶ落ち着いて、わりかししっかりしていたし、証言自体の信憑性は低くないと思う。まあ正直なところ、にわかに信じがたいが…」
「そうですか…。目撃者がいなけりゃ完璧に自殺でしたが、目撃証言をそのままなら180度違う状況になる。…人間に殺傷され続けた大量の狐の怨念が化け物狐を誕生させて、尻尾で人間を引きづり上げ、首つりの処刑を敢行したと…。そうなりますかね。到底、刑事として受け入れられるモノでないでしょうが…」
秋川の口調は淡々としていたが、これは自分でも意識していた。
「なあ、秋川さん、どうなんだろうか…。向井祐二とそっちで行方不明になった女性との、まあ何だな、JAAOのあの見解…。二人の共振とか何とかによる現象でってことは…。実際に石毛老人は一度、我々の眼前でバイクの煙に首を絞められたしな…」
「碓井さん、それはありませんよ!律子さんと祐二さんには、そんなことにエネルギーを注ぐ暇なんてありゃあしませんでしたから、昨夜は。はは…」
「秋川さん…」
”碓井さんの頭上には、はてなマークが3つ点滅するくらい意味不明だろうな…”
秋川は我ながら実に投げやりな言い回しだったと即自戒して、他ならぬ碓井には丁寧に説明することにした。
...
「碓井さん、今日のニュースを見て下さい。それと岐阜県警に問い合わせて下さい…。彼女と祐二さんが、無意識の中の意識として巡り合った岐阜のあの神社で、律子さんはまた失踪したんです…。今朝、バイクだけを残して‥。その代り、1週間前に失踪していた地元の幼い女の子が神社の竹林で発見されたそうです」
「お…、おい!それって…、そういうことなら‼…秋川さん‼」
「碓井さん…、私はね、こう結論に導きたい。本来、地の神に身を捧げる”さだめ”を、この世に生を受ける前から無意識という意識で受容した少女の身代わりを買って出て、そして逝ったんだと。律子さんはね…。理由は言うまでもなくですわ…」
「…」
碓井は慄然として、言葉が出なかった。
「碓井さん…、それね、律子さんが紡がれた人である祐二さんとコンタクトした共同作業になるんじゃないですかね。そんな二人の眼中からは…、今更ですよ、尾隠しのじいさんなんか消えてますって!」
「じゃあ、石毛のじいさんは、一体…」
「祟られたんでしょ…。あんな因果なマネを本気でこれからも残そうってハラだったんだろうからね、あの老人は。あそこの地に長く蓄積された狐の呪い、怨霊…、俺にとっては何でもいい。ただ、フォッサマグナのエネルギーが充満したこのタイミングだったんでしょうね…」
「今日の噴火ってことか…」
この時、碓井は刑事として、秋川の見解を広義で受け入れた。
そこの決断は、この場で自然とできたのだ。
そして同じ刑事として一連の苦悩を共有してきたこの”盟友”には、一言だけ捧げることにした。
「秋川さん…、俺からの願いだ。あんた、デカ辞めるなよ」
「碓井さん…」
...
数時間を要して…。
秋川はやっと、碓井からもらった言葉をギュッと噛みしめながら、それをぼっこりへこんだ胸の中へと、擦り傷覚悟で埋め込むことができた。
そして、床に散乱した大量のパズルピースをひとつ、またひとつ拾い始めるのだった…。
息霊ーイキリョウー 完
「…私らは、御嶽さんは仏山だぞって聞かされてましたからねえ。その仏が噴火したんなら、よっぽど怒ってるんだってねえ、ほんま、昔の人はそう思っていたらしいですよ。言い伝えじゃ、昔は怒りを鎮めるのに、進んで大地の神様に身を捧げる風習なんかもあったとかねえ…」
”そう言うことか…、クソッ‼”
バターン…‼
思わず秋川は踏破寸前だった、足元のジグゾーパズルを勢いよくひっくり返した。
そしてそのまま力なく、パズルのピースが散らばったフローリングの床にへたり込んでしまった。
しばらく呆然として首をもたげ、何度も肩で息をしていると…。
床でケータイが唸っていた。
”ブルルーン、ブルルーン…”
”どっちだろうか、今度は…”
秋川は一度、大きく深呼吸をしてからケータイを手に取った。
発信元は碓井の方だった…。
...
「もしもし、秋川さん…。美津江さんの証言が取れた。石毛のご老体は彼女の目の前で、何十匹もの狐が合体したクマのような巨大狐に首を尻尾で巻かれて、例の枝に吊られたって言うんだ。気が付くと、その瞬間に狐は消えていた…。石毛老人は家の倉庫から持ち出した縄で首を吊っていたんだ。…彼女、だいぶ落ち着いて、わりかししっかりしていたし、証言自体の信憑性は低くないと思う。まあ正直なところ、にわかに信じがたいが…」
「そうですか…。目撃者がいなけりゃ完璧に自殺でしたが、目撃証言をそのままなら180度違う状況になる。…人間に殺傷され続けた大量の狐の怨念が化け物狐を誕生させて、尻尾で人間を引きづり上げ、首つりの処刑を敢行したと…。そうなりますかね。到底、刑事として受け入れられるモノでないでしょうが…」
秋川の口調は淡々としていたが、これは自分でも意識していた。
「なあ、秋川さん、どうなんだろうか…。向井祐二とそっちで行方不明になった女性との、まあ何だな、JAAOのあの見解…。二人の共振とか何とかによる現象でってことは…。実際に石毛老人は一度、我々の眼前でバイクの煙に首を絞められたしな…」
「碓井さん、それはありませんよ!律子さんと祐二さんには、そんなことにエネルギーを注ぐ暇なんてありゃあしませんでしたから、昨夜は。はは…」
「秋川さん…」
”碓井さんの頭上には、はてなマークが3つ点滅するくらい意味不明だろうな…”
秋川は我ながら実に投げやりな言い回しだったと即自戒して、他ならぬ碓井には丁寧に説明することにした。
...
「碓井さん、今日のニュースを見て下さい。それと岐阜県警に問い合わせて下さい…。彼女と祐二さんが、無意識の中の意識として巡り合った岐阜のあの神社で、律子さんはまた失踪したんです…。今朝、バイクだけを残して‥。その代り、1週間前に失踪していた地元の幼い女の子が神社の竹林で発見されたそうです」
「お…、おい!それって…、そういうことなら‼…秋川さん‼」
「碓井さん…、私はね、こう結論に導きたい。本来、地の神に身を捧げる”さだめ”を、この世に生を受ける前から無意識という意識で受容した少女の身代わりを買って出て、そして逝ったんだと。律子さんはね…。理由は言うまでもなくですわ…」
「…」
碓井は慄然として、言葉が出なかった。
「碓井さん…、それね、律子さんが紡がれた人である祐二さんとコンタクトした共同作業になるんじゃないですかね。そんな二人の眼中からは…、今更ですよ、尾隠しのじいさんなんか消えてますって!」
「じゃあ、石毛のじいさんは、一体…」
「祟られたんでしょ…。あんな因果なマネを本気でこれからも残そうってハラだったんだろうからね、あの老人は。あそこの地に長く蓄積された狐の呪い、怨霊…、俺にとっては何でもいい。ただ、フォッサマグナのエネルギーが充満したこのタイミングだったんでしょうね…」
「今日の噴火ってことか…」
この時、碓井は刑事として、秋川の見解を広義で受け入れた。
そこの決断は、この場で自然とできたのだ。
そして同じ刑事として一連の苦悩を共有してきたこの”盟友”には、一言だけ捧げることにした。
「秋川さん…、俺からの願いだ。あんた、デカ辞めるなよ」
「碓井さん…」
...
数時間を要して…。
秋川はやっと、碓井からもらった言葉をギュッと噛みしめながら、それをぼっこりへこんだ胸の中へと、擦り傷覚悟で埋め込むことができた。
そして、床に散乱した大量のパズルピースをひとつ、またひとつ拾い始めるのだった…。
息霊ーイキリョウー 完



