帰点と起点/その7
その電話の主はN署の碓井だった。
「…秋川さんですね。長野の薄井です!」
「碓井さん…、実はたった今、そちらに電話しようと思っていたところだったんです!」
「えー!なら、昨夜の尾隠し地蔵での件、ご存知だったんですか、もう…?」
「えっ…?尾隠しでまた何かあったんですか‼」
「ええ…。昨夜、例の石毛のご老体があの大木の枝で首を括って亡くなりました」
「自殺ですか!」
「それが…、今回は目撃者がいましてね」
”なんだってー⁉じゃあ、目撃者の証言に信憑性があれば、大きな謎が解けるじゃないか。もしかしたら、律子さんの失踪解明にもつなげられるかもしれない…”
...
つい十数分前まで非番モードにどっぷりと浸っていた秋川の頭は、かなり混乱気味ではあったが、”肝心”なところは条件反射的に掴めた。
「証言は…、その目撃者の証言は取れたんですか!一体、どうだったんです⁉」
「あのですね…、目撃者は昨年、向井邸での騒ぎの時に居合わせた住人の釘田美津江さんなんですがね…。精神的なショックがあまりに強く、まだじっくり話を聞ける状態ではない」
「…」
「…しかし、断片的に狐のしっぽが石毛さん首に巻きついたとか、巨大狐に締め殺されたとかとね…。今は錯乱状態だから鵜呑みにはできないが、単純な自殺とはできないかも。ふう…、また振出しに戻った気がしますわ。それで…、あなたの方は、この件でなかったとすると、そっちでも何かあったんですか?」
「…津藤律子がまた失踪したんです。昨夜…」
「なんですって⁉同じく昨夜かよ、おい…!」
電話口の向こう側の刑事も、おそらくは自分と同じことを想像しているのかもしれない…。
秋川は即座に、碓井のリアクションをそう感じ取っていた。
...
「律子さんの両親は捜索願を出します。…碓井さん、これがどういうことであるとしても、我々の情報共有は不可欠です。密に連絡を取り合いましょう。いいですか?」
「ああ、もちろんだ!JAAOの導いた結果はそれとして、我々警察は目の前に事件が発生すれば、まずは現場捜査に全力を尽くす。それが使命ですからな」
「そうです。目の前で起こったことは、それがどんなことであろうとも無視はできない。そういうことです」
秋川はさりげなく”念押し”をしておいた。
「…美津江さんの証言が取れ次第、リアルタイムであなたに報告します。ここは、東署じゃなくあなたを窓口にしますよ。ウチの署には、今回のヤマもこれで通してますから。いいですな!」
「はい。東署には新田を通じて、俺がそれで対応します。こっちの状況も進展があればすぐ連絡いれますよ」
「了解した。…秋川さん、お互い早くすっきりしましょうや。今回で…」
秋川には、碓井の刑事としての心情が手に取るように汲取れた。
”言われるまでもないさ。前回切り込めなかったラインも、今回で突破口が開けるかもしれない。だが、何より最優先なのは津藤律子を探し当てることだ。無事の状態で…”
この時の秋川は、もう頭の中で、優先順位とそれぞれの進め方が明確に整理されていたのだ。
...
その後すぐ、向井月枝に連絡して、昨夜ほぼ同時に起きた二つの出来事を最低限度で伝えた。
月枝は明らかにショックを隠せない様子だったが、今までのいきさつからしてリアルタイムで話さないわけにはいかないと、秋川は確信していたのだ。
この後、秋川はとりあえず自宅で連絡が入るのを待ちながら、今までの記録に再度目を通し、様々な今後起こりうるケースを想定してみた。
無論、この件に於いては科学的視点を超えた考察も必要となり、その想定の中には通常の刑事にとっては到底受け入れられない範疇も含まれ、”そこ”に自分を持って行った秋川には、誠にしんどい作業であった。
”ブルルーン、ブルルーン…”
その日の午後1時半前、再び新田からの着信が入った。
「…おお、新田!津藤さんの方、済んだか?」
「はい…。詳細は後で話しますから。…秋川さん、今自宅ですか?」
「ああ、そうだ」
「テレビ、つけてください、すぐ!」
「…わかった」
秋川は直感的に緊急を要する事態だと察し、急いでリモコンの電源を入れた。
...
「つけたぞ」
「○○チャンネルお願いします。ワイドショーのニュース枠でさっき報道してたんですが、繰り返し入ると思いますから、できれば録画してください」
「よし。やっておこう」
秋川が録画の操作を終えた直後、新田の大きな声がケータイから耳に届いた。
「秋川さん!やってます、岐阜の現場報告ですよ!」
「!!!」
”こんなことって…、こんなことって…‼”
リビングから流れるワイドショーのニュース報道を目にした秋川は、全身の血液が逆流するほどの驚愕で、しばらく絶句を余儀なくされた。
その電話の主はN署の碓井だった。
「…秋川さんですね。長野の薄井です!」
「碓井さん…、実はたった今、そちらに電話しようと思っていたところだったんです!」
「えー!なら、昨夜の尾隠し地蔵での件、ご存知だったんですか、もう…?」
「えっ…?尾隠しでまた何かあったんですか‼」
「ええ…。昨夜、例の石毛のご老体があの大木の枝で首を括って亡くなりました」
「自殺ですか!」
「それが…、今回は目撃者がいましてね」
”なんだってー⁉じゃあ、目撃者の証言に信憑性があれば、大きな謎が解けるじゃないか。もしかしたら、律子さんの失踪解明にもつなげられるかもしれない…”
...
つい十数分前まで非番モードにどっぷりと浸っていた秋川の頭は、かなり混乱気味ではあったが、”肝心”なところは条件反射的に掴めた。
「証言は…、その目撃者の証言は取れたんですか!一体、どうだったんです⁉」
「あのですね…、目撃者は昨年、向井邸での騒ぎの時に居合わせた住人の釘田美津江さんなんですがね…。精神的なショックがあまりに強く、まだじっくり話を聞ける状態ではない」
「…」
「…しかし、断片的に狐のしっぽが石毛さん首に巻きついたとか、巨大狐に締め殺されたとかとね…。今は錯乱状態だから鵜呑みにはできないが、単純な自殺とはできないかも。ふう…、また振出しに戻った気がしますわ。それで…、あなたの方は、この件でなかったとすると、そっちでも何かあったんですか?」
「…津藤律子がまた失踪したんです。昨夜…」
「なんですって⁉同じく昨夜かよ、おい…!」
電話口の向こう側の刑事も、おそらくは自分と同じことを想像しているのかもしれない…。
秋川は即座に、碓井のリアクションをそう感じ取っていた。
...
「律子さんの両親は捜索願を出します。…碓井さん、これがどういうことであるとしても、我々の情報共有は不可欠です。密に連絡を取り合いましょう。いいですか?」
「ああ、もちろんだ!JAAOの導いた結果はそれとして、我々警察は目の前に事件が発生すれば、まずは現場捜査に全力を尽くす。それが使命ですからな」
「そうです。目の前で起こったことは、それがどんなことであろうとも無視はできない。そういうことです」
秋川はさりげなく”念押し”をしておいた。
「…美津江さんの証言が取れ次第、リアルタイムであなたに報告します。ここは、東署じゃなくあなたを窓口にしますよ。ウチの署には、今回のヤマもこれで通してますから。いいですな!」
「はい。東署には新田を通じて、俺がそれで対応します。こっちの状況も進展があればすぐ連絡いれますよ」
「了解した。…秋川さん、お互い早くすっきりしましょうや。今回で…」
秋川には、碓井の刑事としての心情が手に取るように汲取れた。
”言われるまでもないさ。前回切り込めなかったラインも、今回で突破口が開けるかもしれない。だが、何より最優先なのは津藤律子を探し当てることだ。無事の状態で…”
この時の秋川は、もう頭の中で、優先順位とそれぞれの進め方が明確に整理されていたのだ。
...
その後すぐ、向井月枝に連絡して、昨夜ほぼ同時に起きた二つの出来事を最低限度で伝えた。
月枝は明らかにショックを隠せない様子だったが、今までのいきさつからしてリアルタイムで話さないわけにはいかないと、秋川は確信していたのだ。
この後、秋川はとりあえず自宅で連絡が入るのを待ちながら、今までの記録に再度目を通し、様々な今後起こりうるケースを想定してみた。
無論、この件に於いては科学的視点を超えた考察も必要となり、その想定の中には通常の刑事にとっては到底受け入れられない範疇も含まれ、”そこ”に自分を持って行った秋川には、誠にしんどい作業であった。
”ブルルーン、ブルルーン…”
その日の午後1時半前、再び新田からの着信が入った。
「…おお、新田!津藤さんの方、済んだか?」
「はい…。詳細は後で話しますから。…秋川さん、今自宅ですか?」
「ああ、そうだ」
「テレビ、つけてください、すぐ!」
「…わかった」
秋川は直感的に緊急を要する事態だと察し、急いでリモコンの電源を入れた。
...
「つけたぞ」
「○○チャンネルお願いします。ワイドショーのニュース枠でさっき報道してたんですが、繰り返し入ると思いますから、できれば録画してください」
「よし。やっておこう」
秋川が録画の操作を終えた直後、新田の大きな声がケータイから耳に届いた。
「秋川さん!やってます、岐阜の現場報告ですよ!」
「!!!」
”こんなことって…、こんなことって…‼”
リビングから流れるワイドショーのニュース報道を目にした秋川は、全身の血液が逆流するほどの驚愕で、しばらく絶句を余儀なくされた。



