尾隠し地蔵


「ハハハッ…、ひょっとして、僕がここで自殺でもとかって、心配してくれてました?借金苦で」

向井さんは一転して、笑顔でこう問いかけてきた。
私、よっぽど深刻な顔してみたいだわ…。

「ええ。まあ、やっぱり…」
「いやあ、ちょっと心配させちゃったかなあ。まあ、話の成り行きで首吊りなんて口にしちゃったけど…。毎年ここでとかってのは根拠ないし、大げさに言っちゃったんですよ、勢いで。都市伝説系の流れで。ごめんね。こんなとこまで呼んでおいて、辛気臭い話聞かせて」
「いいんです。そうですよね。私、単純なんですよ、結構、はは…」

向井さんは、最初のさわやかな顔に戻っていた。
うん、やっぱり、怖い話で驚かせようというノリだったんだろう。
少し引っかからないでもないが…。

...


「ここの地蔵は”尾隠し地蔵”って言って、キツネだってわかる、尾っぽを隠すことが出来る逃げ場所だってのが由来らしいんだよね。それで、このへんの地名になって残ったんだけど」

んー、ここらあたりに話が及ぶと、民話の世界観だなぁ。
メルヘンか?
ちょっと明るい話っぽくなったから、聞くこと聞くかー!

「ところで、向井さんはおいくつ?独身ですかー?」
「36で、独身です。」
「じゃあ、私何歳に見えます?」
「えーと、24くらいかな」

ずばりだわ。
すごっ。

「よくわかりましたね」
「なんとなく…(微笑)」

なんとも無難な会話だが、こんなもんだろう。
感じのいい人ではある。
だけど、所詮オークションの取引相手で終わっちゃう男性だし。

...


「今日はあなたみたいな取引相手と会えて、なんか楽しかったです。若い時、東京の大学行って、それから都会で就職したんだけど、何やっても今ひとつで…。結局、生まれた土地に戻って、親の商売継いで、それも失敗したから。言い訳かもしれないけど、ここに引き戻される運命だった気もすんだよね。だから、愛車を売る相手には、ここに来てほしかったんです。ガス代の節約もあったけど…。感謝してます」

少し、ぐっと来た。
”引き戻された”という言葉も、どこか妙に重い。
なんか知れんが、この胸に入ってくるもんがもんがあった…、モヤモヤって感じだったけど。
そんな気がしたんだ。

結局、私たちはそれで別れた。
取引終了だ。

帰り際、車を出す彼に、「帰ったら評価おくりますね」と声をかけると、彼は運転席の窓か出したら右手を振ってた。

「…」

さあ、明日は休暇を取ってあるから、名義変更の手続きすませよっと。
で、その次の日は、マイマシンで出勤じゃい!