溺愛したい彼氏は別れても、溺愛をやめたくない。

「どうしたの?」

 いつもと違う兄さんを不思議に思いながら、兄さんのほうに振り返る。

 すると兄さんは、俺と視線を合わせて柔らかい笑みを浮かべた。

「きっと庵の思う最悪な事にはならないよ。親父からの課題だって逃げても良いから、あとは兄ちゃんに任せとけ。」

「……そう。」

 兄さんは意味の分からない事を言い、優しい眼差しで見つめている。

 そんな兄さんから逃げるように、急いで病室から出た。

 ……どういう、事だ。

 兄さんの言葉の意味が全く分からなくて、脳内を駆け巡っている。

 俺の思う最悪な事は……菜花に会えなくなる事。

 そんな事にならないって……兄さんは何を考えているんだろう。

 それに、父さんの課題から逃げても良いだなんて……できるはずがない。

 父さんにたてつけば、どうなるか分かったものじゃない。

『何故私の言う事が聞けない!』

『ごめんなさい……もう、言いません。』

 ……嫌な事、思い出しちゃったな。

 俺はもう、弱い自分じゃない。ある程度なら、父さんに抗議できる。

 ……だったら早く、菜花に会いに行けばいいのに。