気まずくて視線を下に動かした私とは違い、市ヶ谷君はいつもの柔らかい笑みでいる。

 ど、どうしてそんないつも通りでいられるんだろう……。

 私には絶対に無理だ、そう思いながらも視線を戻す。

 視線を逸らし過ぎても、不自然だし……。

 強引に思い込み、自分をうんうんと納得させる。

「ふーん……市ヶ谷も結構大胆だねぇ。あたし、そういうの嫌いじゃないよ。あんたの性根は腐ってると思うけどね。」

「あはは、そっか。確かに、八千代よりは悪知恵は働くんだよね。性根は八千代のほうが腐ってそうだけど。」

「ふふっ……市ヶ谷、後で半殺しにしてあげる。」

 ん……? 二人とも、何のお話をして……?

 香耶ちゃんの言ってる事も、市ヶ谷君の言ってる事も分からない。

 ……やっぱり私、理解力が乏しいのかな。

 つくづくそう思うから、きっとそうなんだと思う。

「まぁ、あたしは菜花が大事だから……」

 そう考えた次の瞬間、香耶ちゃんにぐいっと腕を引っ張られた。

 わっ……と驚く暇もなく、そのまま香耶ちゃんに抱きしめられる形になる。